熱中症だなこれ

 「…った」

 膝をついて、空を見上げて。

 「やっ、た」

 呆然としながら。

 「しゃあぁぁぁぁ!!!!!」

 自分のしたことを理解して、文人ふみと先輩は叫んだ。

 それと同時に、僕達も叫ぶ。


 僕達の叫び声を背に、文人先輩は挨拶を終え、先輩たちがラインに並ぶ。どの先輩もニヤついており、歓喜を抑えきれていなかった。

 「……あー、本っ当に良かった。これで、まだ___ 」

 なんとか落ち着いたのか、いとさんが小さく呟く。途切れた言葉の先に続くのは、多分、僕と同じ想いだろう。

 良かった、本当に。

 試合後の挨拶をしている先輩の背中を眺め、そう思った。


 「お疲れさまです、センパイ!おめでとうございます!」

 「お疲れさまです!」

 先輩たちがコートから出てきたと同時に、糸さん、僕を含む部員たちが声をかけにいった。

 「ありがとうな、皆。表彰式があるから、準備しておけよ」

 口々に先輩たちに話しかけ、興奮している僕らを落ち着けるように、優大ゆうだい先輩はゆったりと話しかける。その後ろで、文人先輩がグラついた。

 「___あ、ヤバ」

 「文人先輩っ!!」

 僕が駆け寄ると同時に、文人先輩が力なく倒れる。ギリギリセーフ、なんとか受け止めることができた。

 「文人先輩、どうしました!?」

 「……あつい」

 「…あ〜、熱中症だなこれ。じゅんくん、センパイ熱中症だと思う。軽度だからまだ大丈夫…ってことではないけど、対処しようはあるね」

 センパイたち、アイス買ってきてくれません?あと、氷も。糸さんはそう言って、他の先輩たちに指示を出す。

 僕は文人先輩を担ぎ、日陰にあるテントまで運んだ。

 「先輩、これ飲んでください」

 クーラーボックスで冷やしておいたスポーツドリンクを差し出し、とりあえずの水分を確保。そして、脇や首などを氷嚢で冷やし、体の熱を逃がす。

 「純、文人は?」

 ある程度の処置が終わった所で、優大先輩がテントを覗いて尋ねる。

 「…多分、表彰式には出ない方が良い、ですかね」

 文人先輩の顔色はまだ悪いし、体も熱い。表彰式に出たら、多分悪化する。それは嫌だ。

 「わかった。じゃー文人、表彰式は休め。…よく頑張ったな、ありがとう」

 優大先輩はそう言って、表彰式があるコートへと向かっていった。

 「…あーあ、でたかった」

 文人先輩は小さい声で、寝転がりながら呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る