静寂とともに
県大会決勝。
シングルス1番手の
全国大会出場へ王手をかける。
ダブルス1番手の
「ハァッ!」
声を出しながら、文人先輩はボールを打つ。その
「ナイスショッ、文人ー!」
良い角度にボールを打ち、点が入る。
文人先輩は対戦相手を見つめたまま、小さく手を掲げた。
「
審判のコールで、すぐに先輩はラケットを構える。
ピリピリと肌を突き刺す緊張感。それと、抑えきれない興奮。この2つが混じり合った異様な空気が、静寂とともに場を支配する。
苦しい。見ているだけなのに、苦しい。緊張で、息が詰まりそうだ。
そう思って、文人先輩を見つめて、気付く。
ギラギラと、文人先輩の目が輝いていた。最高の遊び相手を見つけたような子供のように、強く、ギラギラと。
___楽しい。
文人先輩が、そう言っているようだった。
相手のサーブから始まり、試合は続く。
「あっ」
文人先輩の強烈なストロークを、相手は返しきれずに打ち上げる。そのボールの下に素早く入り、先輩はスマッシュを打ち込んだ。
「__ゲーム、
「シャアアアアッッ!!」
あと1ゲーム取れば、優勝。
サービスチェンジにより、サーブ権は文人先輩へと移る。
「…ね、
僕の隣で見ていた
「センパイ、決めるよ」
その言葉と同時に、文人先輩がサービスエースを決める。コート中が、歓声で湧き上がった。
2球目。強烈なファーストサービスが入り、相手はうまく打ち返すことができない。そのボールを逃さず、先輩は強く打ち込んだ。
「ッッエエイ!!!」
先輩は吠えるように叫び、僕達に見えるようにガッツポーズを取る。僕達もその叫び声に呼応するように叫んだ。
3球目。ファーストサービスはネットにかかり、セカンドサービスへ。相手はサーブの速さを殺し、前に落とす。
間に合わない、と僕が思うよりも速く先輩は走り出し、ツーバウンドぎりぎりの所でボールを返した。
「はえ〜」
誰かが呟いた。僕と糸さんはコートから目を離さず、頷く。
今度はロブを打たれ、先輩はコート後方へと駆けていった。途中でボールに追いつき、スマッシュを打つ。綺麗に決まり、点が入った。
「ッシャァッッ!!」
あと一点で、優勝。あと一点で、全国大会。
コートの周りから音が消え、先輩と対戦相手の音だけが聞こえる。
「ふー…、ふー…。っし」
ボールを見つめ、息を整える。
練習で見る、いつもの動作、いつものトス。それなのに、鳥肌が止まらない。ゾワゾワと、背中を何かが駆け上る感覚がする。
糸さんが僕の服の裾を掴み、囁くように言った。
「___来、る」
パァンッ!!
稲妻が走った。
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