忌々しい

 県大会団体戦当日。

 「…行ってくる。応援、よろしくな」

 前の高校の試合が終わり、黎明れいめい高校の順番が来る。優大ゆうだい先輩達はそう言って、コートの中に入っていった。

 僕といとさんはマネージャーなので、他の先輩や同期は選手登録を行っていないのでコートには入れない。大人しく、コート外から試合を眺めておくしかできない。

 何もできないって、辛いよね。

 地区大会を見ていた糸さんの言葉だ。


 県大会も順調に勝ち進み、途中週を挟んだが、現在ベスト4は確定している。

 先輩たちに聞くと、全国大会に出られるのは各県1校のみ。つまり、この大会で優勝しないと、全国の舞台には立てないそうだ。

 全国という名前の大きさに、ビックリしてしまったのは内緒だ。

 「じゅんくん、他の皆の様子どう?」

 「結構、暑さでやられてるね。水分補給と塩分補給するように言っておいたけど、かなりキツそうだ」

 今日の天気は雲ひとつない晴れ。したがって、気温もかなり高い。選手たちもだが、観戦者たちも気をつけないと熱中症になってしまう可能性は十分にある。

 事実、ウチも何人か暑さでやられて、テントで休んでいる人が居た。

 「分かった。…センパイ達、大丈夫かな」

 糸さんはそう呟き、空を見上げる。そこには忌々しいほど輝いている太陽があった。


 黎明高校は準決勝も勝ち、決勝へ悠々と駒を進める。

 「気合入れるぞ。油断すんなよ」

 優大先輩の掛け声に合わせて、レギュラーの先輩たちが円陣を組む。

 優勝すれば、全国大会。

 先輩たちの気合は十分だった。

 審判のコールから、試合が始まる。


 「何もできないって、辛いよね」

 「うん、辛いね」

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