傷だらけ

 どこか雰囲気が悪いまま、部内戦は終わった。

 優勝者はキャプテン、雪下ゆきした 燈示とうじ先輩。

 準優勝者は2年の望月もちづき 文人ふみと先輩。

 その他のレギュラーメンバーも上位を独占している。


 「今日はありがとう、じゅん。お疲れ様」

 テントを片付けていると、そう言いながら優大ゆうだい先輩が手伝ってくれた。テキパキとテントが畳まれ、あっという間に仕事が片付く。

 「いえ、こっちこそありがとうございます。…あの、優大先輩。いとさん、どこに行ったんですか?」

 優大先輩に礼を言いつつ、ずっと気になっていたことを訊ねる。水汲みから帰って来たときから、糸さんの姿が見えなかったことを。

 優大先輩は一瞬手を止め、気まずそうに目をそらす。そして、仕方ないか、と小さく呟いて、言った。

 「糸とたつき、戦ってただろ?…あいつら、をしたんだ」

 「…え?」

 樹って、あの同じ1年の若宮わかみや たつきだよな?あいつが、糸さんと喧嘩?

 「…しかも、殴り合いの、な。俺も何が何だが分からないんだ」

 「は?」

 ?糸さんと、樹が?

 わけが分からず、手が止まってしまう。

 「もちろん殴り合いは止めさせた。で、今は走りに行かせてる。…ほら、戻ってきたぞ」

 優大先輩はそう言って、コートの入口を見る。僕も入口を見ると、そこには傷だらけの糸さんが居た。

 傷だらけの糸さんが、居た。

 「糸さん!!??」

 そう叫びながら、糸さんに駆け寄る。唇は切れ、頬は赤く腫れ、腕には擦り傷、打撲痕。服も髪もボロボロで、汗と血が混じっている。

 何でこんなことに、と思って、原因である樹を見る。そして、息を呑んだ。


 樹は、糸さんよりも傷だらけだった。


 「あ、純くん。今日は仕事ありがとね。後は私がやるから、もう帰っていいよ」

 「あ、糸ちゃんオレも手伝うわ」

 「ありがと、樹。じゃ、まず洗うか」

 「そうだな」


 糸さんと樹は僕の様子に気づかず、仲よさげに話している。それを見て、僕は更に混乱した。

 糸さんと樹、殴り合いしたんじゃなかったっけ。もう解決したの?それはそれで、早くない?

 「えぇ…」

 乾いた言葉しか出ない。教えて、糸さん。

 「純くん、どうした?」

 やっと糸さんが気付いて、変な音を出した僕に尋ねてくる。

 「…糸さん、樹。二人の、喧嘩ってさ」

 「ああ、それ?もう仲直りしたよ、ねっ、樹」

 「うん、糸ちゃん」

 仲直り早。と僕は思った。

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