部内戦

 高校の硬式テニス部は、夏が早い。

 イケメン先輩もとい部長もとい優大ゆうだい先輩からそう教わった。

 弱い学校ところは4月の末に、強いところは7月の末から8月の初めに終わるそうで、ウチの学校は後者の強いところに含まれる。

 先輩たちに色々と教わり、チームにも、先輩・同期の名前呼びにも馴染んだ頃、すでに地区大会は終わっていた。

 ぶっちぎりの優勝だったので、スポーツ強豪校は伊達じゃないな、と試合を見ながら思った記憶がある。


 「じゃ、部内戦をしたいと思いまーす。県大会出るメンバーは本番だと思って気を引き締めること、出ない奴もレギュラーメンバーを倒すつもりで戦ってくれー」

 県大会が始まる2周間前、優大先輩が部員全員を集めてこう言った。

 「あ、そうそう。いとも参加だからね」

 先輩はそう付け加え、僕達、正確には糸さんを見る。視線に気付いたのか、糸さんはビクリ、と体を揺らした。

 「トーナメントは作ってきてるから、明日開催します。各自、準備しておけよ。じゃ、解散」

 「「「「(お疲れ)サマシタァッ!!!!!」」」」

 終礼の恒例の挨拶で、その場は解散となった。


 「うっわー、部内戦参加することになっちゃった。じゅんくん、どうしたら良いと思う?」

 帰り道、糸さんが焦ったように僕に訊ねる。

 「全力で戦えば良いんじゃない?僕が言えるのそれしかないよ」

 僕はプレイヤーじゃなくマネージャーとしてテニス部この部活に入ったので、アドバイスなんかできない。言えるとするなら、これぐらいだ。

 「……そっか」

 糸さんは顎に手を当て、考え込むような仕草をする。

 そして、次の瞬間、パッと顔を上げたかと思うと、

 「うん、そうだね!明日は全力で戦う。純くん、ありがとう」

と言って、目を輝かせた。


 …明日が楽しみだなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る