入部

 「センパイ方〜。見学者連れてきました〜」

 放課後、藍染あいぞめさんに連れられてテニスコートへ向かう。

 コートに入った瞬間、藍染さんが大声でそんな事を言ったので慌ててしまった。何でわざわざ大声で言っちゃうの、目立ってしまうからやめて、藍染さん。

 「じゃあ、神尾かみおくん。私、準備してくるから、見学してて」

 「えっ、藍染さん。行っちゃうの!?」

 後でね、と言って藍染さんはコートの奥に消えていってしまった。僕の声は届かず、虚しく空中に消える。

 コートの入り口に突っ立ったままの僕に、視線が突き刺さる。どうしよう、気まずい。

 「…えっと。見学者…だよね?」

 背後から声がかかる。振り返ると、おそらく3年の先輩が立っていた。背が高いし、体格もいい。うわ、イケメンだ。

 「はっ、あの、いや、えっと…。は、はい。そうです」

 言葉に詰まってしまう。なんとか頷くと、その先輩は

 「そっか、良かった」

と安心したように笑った。本物のイケメンだ。

 「ゆっくり見学していって」

 イケメン先輩はそう言って、藍染さんと同じようにコートの奥へと姿を消した。


 …かっこいいな。僕も、あの人みたいになりたい。


 「お前のせいで負けた」


 だから、今度こそ頼りたい。

 かっこよくなれば、君達は文句を言わないだろう?


 「ごめんね、神尾くん。準備終わったし、色々教えるね」

 制服から練習着らしき服に着替えた藍染さんが、謝りながら僕のところへ来る。

 僕はそんな藍染さんに、さっき決めたことを言った。

 「藍染さん」

 「うん?」

 「僕、テニス部入るよ。マネージャーとして」

 藍染さんは、その大きな目を更に大きくして、呆けたような表情を浮かべる。でも、次の瞬間笑顔になった。

 「…やったぁ!!よろしくね、神尾くん!!」

 そして、これまたコート中に響き渡る大声で藍染さんは言った。かわいい。

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