勧誘
入学から一週間。
なんとか高校の授業に慣れ始め、新入生が部活動に入り始めた頃。
僕は、隣の席の
「ねえ
昼休み、早々に弁当を食べ終えた藍染さんが目を輝かせて言う。
「ふぇにすぶ(テニス部)?」
米を口に含みながら、僕は聞き返した。
テニス部。確か、最初の自己紹介で藍染さんが入るって言っていた部活だったような。それに、僕が?僕が、入るの?
「そう、テニス部。神尾くん、入る部活決めてないって言ってたから、一緒に入ろうよ」
僕の疑問を打ち消すように、藍染さんが力強く頷く。かわいい。
「まあ、もう私入部してるんだけど。…楽しいよ、テニス。見てるのも、やるのも」
もう入部したんだ。早いね。
最後のひとくちを食べ終えて、僕は藍染さんと向き合う。藍染さんはワクワクした顔で、僕の返答を待っていた。…そんなに期待されると、答えにくいな。
「う〜ん。でも僕、そこまで運動神経ないし…。それに、
なるべく藍染さんを傷つけないように言葉を選んで答える。せっかく誘ってくれたんだ、丁重に答えないと申し訳ない。
僕の返答を聞いた藍染さんは、キョトンとした顔をする。次いで、破顔した。かわいい。
「なんだ、そんなの関係ないよ。だったらマネージャーになればいいやん」
あれ、僕の耳がおかしくなった。今、マネージャーって言葉が聞こえた。
確認のために、藍染さんに聞き返す。
「藍染さん、今マネージャーって言った?」
「言ったよ」
僕の耳はおかしくなってなかった。それは良かった。けど、良くない。
「マネージャーって、あのマネージャー!?僕が!?」
マネージャーって、よく少女漫画やスポーツ漫画で女の子がなっているあのマネージャーのことだよね!?僕が、それになるの!?
男がマネージャーって、聞いたことがない。それに、
「男がマネージャーって、変…」
「じゃない!」
藍染さんに反論しようとして、そう言われた。にっ、と太陽みたいに彼女は笑う。
「男子がマネージャーなのはおかしくないよ。ていうか、何でマネージャーの性別が決めつけられてるの?別に男子がやったって良いやん」
「おぉ…、それは確かに」
「でしょ!?だから入ろ、テニス部。今日は見学だけでもいいからさ」
ばん、と机に手を置いて、藍染さんは身を乗り出す。藍染さんの顔が近づいて、思わず身を引いてしまった。
「大丈夫、私が案内するからさ」
ね、良いでしょ?と無言で問いかけてくる。
僕は思わず、頷いてしまった。
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