よろしくおねがいします

 「じゃあはじめましてだと思うから、一人ずつ自己紹介していってくだーさい。名前と出身地と、好きな物、事。または入る予定の部活でもいいぞー」

 教壇に立つ先生の言葉で、クラス内の空気が一瞬揺らいだ。

 何を言えば、新しいクラスに早くとけ込めるだろう。どう言えば、「変な人」という印象を持たれないだろう。緊張でうまく働かない脳を巡らせ、必死に考える。

 「じゃあ、藍染あいぞめから順番に自己紹介お願いしまーす」

 「はーい」

 ガタッ。

 大きな音を立てて、隣の席の子が立ち上がった。あやっべ、とその子は呟いて、クラス全体を見渡すように体の向きを変える。

 「…えーっと。藍染あいぞめ いとです。出身はココ福岡です。好きな事…は多いので、ちょっと言い切れません。入る予定の部活は硬式テニス部です。一年間、よろしくおねがいしまーす」

 最後に小さく礼をして、藍染あいぞめさんは座った。

 パラパラと小さな拍手が教室の各地で起こる。

 その後も、藍染さんの自己紹介を真似する形で自己紹介は続いていった。

 「はい、次は神尾かみお。前に戻るぞー」

 「はい」

 最初の一列が終わり、二列目の先頭、僕の順番が来る。

 大きな音を立てないようにゆっくりと立ち上がり、椅子を引いて、

 ギィィ…。

思い切り、音が鳴ってしまった。

 あ、やば。小さく呟いて、何事もなかったかのように振り返る。クラス全体を見渡せるように。

 あれ、僕なんて言おうとしてたっけ。やばい、今の椅子で話題を忘れてしまった。どうしよう、このままじゃ変な間が空いてしまうし、緊張しているのはばれたくない。

 …よし、アドリブで行こう。

 「神尾かみお 純一じゅんいちです。地元は福岡です。まだ入る部活は決めてないですが、何かしら入ろうと思っています。宜しくおねがいします」

 全て言い終えて、すぐに席についた。他の人同様、小さな拍手が起こる。

 噛んでない。僕、噛んでない。変なことも言ってないよね。よし、頑張った。

 ホッと息を吐き、後の人達の自己紹介を聞く。中にはあだ名の事を言っていたり、「甲子園に連れて行く!」と言っている人もいた。

 全員の自己紹介が終わり、最後に担任、副担任の先生が自己紹介をする。

 「わたしは真田さなだ さとしです。皆さん、一年間よろしくおねがいします」

 「ハイ、皆サン。ワタシは伊達だて ジェニーです!ジェニー先生センセイって呼んでネ!」

 真田さなだ先生と、ジェニー先生。宜しくおねがいします。

 そして、僕の高校生活が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る