コンカフェ子息のナンバーワン 前編


ここは男が接客をしてくれるという設定のコンセプトカフェ、もちろん本物の男が接客をしてくれるわけではなく女性が男装をしてサービスを行うといった形式だ。

執事風だったり、剣士や忍者、男巫女なんてのもあったりする。


彼はそんなコンカフェで唯一の本物の男であり人気No. 1として働いている。


「お帰りなさい、お姉ちゃん」


因みにここのコンカフェの設定では、店は家であり、従業員は学生の弟設定で、学生服を着用、お客様はお姉ちゃんということになっている。


「フフ、ただいま〜」

「帰ってきたら、こっちに座ってね」

「はいはい」


お客様が来店したら挨拶、席へ誘導する、彼が働き始めてからいつも席は満席状態だった。


因みに本物の男が働いているということで、来店は完全予約制、入店から2時間の時間交代制、予約も抽選販売であり、転売でも当選券が出回らないのはこの世界の女性がどれだけ男性に飢えているかが現れているのだろう。


「お姉ちゃんは何を飲むの?」

「あっ、じゃあ、この”弟特製 トロトロミルク ティー”で、あと、”抱き付きチェキ”3枚、長男くん指定で」

「… わかった、持ってくるから待っててね」


ホールを回すのは5人、男は彼1人で他は男装した女性。

キッチンが2名おり、計7人体制で最大28席分のお客へ対応する。

しかし、彼以外のホールスタッフはほぼ配膳係と化しており、お客様との雑談の為にずっと動き回るのは彼だけである。


彼はお客様の注文を通す為にキッチンへと入り、注文を伝える。


「すいません、ミルクティー1つ」

「またー? 本当に皆んなそれしか頼まないよね、下心が丸見えだわ」

「あはは、皆さん値段とか気にして無いですもんね、それ持って行ってチェキ撮ってきます」

「よろしく、ラスト2時間乗り切ったら今日は閉店だからね、頑張って」


はい、と言ってカップに入ったミルクティーを持ってお客様の元へと向かう。


「お待たせ、ミルクティーだよ…

”僕のトロトロミルク ティーゆっくり味わってね”」

「うヒヒ、もちろんゆっくり味わうからねー」


このミルクティーには配膳した際に台詞を吐くサービスがあるので、今言った台詞を読み上げなければならない、注文したお客もニヤニヤしながら鼻の下を伸ばしている、実際かなり恥ずかしい。

値段も他のドリンクメニューに比べてかなり高いのだが殆どのお客がこのミルクティーを頼んでいく、ドリンクでは他の商品が出ることが珍しいくらいだった。


「あと、チェキなんだけど、あっちのブースまで来てもらっていい?」

「いいよ、いいよ、早くいこう、早く」

「うん、ありがとう」


抱きつきチェキとあるが、直接の触れ合いはない、ただ抱きついてる風の写真を撮るだけなのだが、これもかなり高額である。


「はい、撮りまーす、3.2.1」


パシャリ

フラッシュの眩しさには未だに慣れそうに無い、と思いながら立て続けに残り2枚を撮り終える。

プリントされたチェキカードに落書きをしてお客様へと渡す。


「長男くん、次も絶対来るから、これはその時まで持っておいて」

「え、あの」


撮り終えたばかりのチェキカードを彼に渡すと満足そうに席へと戻るお客様。

これはよくある話だ、1人3枚までのチェキカードを1枚自分へと強引に渡してくるのだ、正直自分の写真など要らないので貰っても嬉しくは無い。


因みにこの店は売上によって従業員の続柄が変わる、売上上位から長男、次男と行った具合に呼称が変わるのだ、もちろん彼は入店からずっと長男だった。


「また写真が増える。」


貰ったチェキをポケットに仕舞い込み、最後の気合を振り絞って、順番にお客様の席を回り、彼女らの期待に応えるように笑顔で談笑する。

こうして愛想を振り撒いて彼の業務は終了していくのだった。


_________________________________________


~台詞付きメニュー~※(H)はホットドリンクです

弟特製 トロトロミルク ティー(H)【2,500円】

疲れた姉を労う 弟のスポドリ【1,300円】

愛情たっぷり 弟お手製 炒飯【2,500円】


~チェキ~ ※注文は1人3枚までとなります

弟単身チェキ【5,000円】

ツーショットチェキ【5,000円】

抱きつきチェキ【8,000円】


商品価格は全て税抜きです。

プラス消費税がかかります。

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