(H)本音で語らう小料理屋を営んでいます 1
「男将さんはイイ人いないわけ? なんだったら私が養ってあげてもいいわよ」
「じゃあ、都心のタワーマンションをプレゼントしてくれたら考えますね」
「そうくるか、それはちょっと難しいわね」
男将がクスッと笑う、紺色の着物から覗くすらりとした首筋と鎖骨のラインがなんとも言えずたまらない。
持っているグラスを空にするペースが上がりそうだ。
ここ数年は社会の荒波に揉まれ、気づけば30歳を越えている自分に落胆し、出世して男を捕まえるつもりだったのがいつからか部下と上司の板挟み。
私を癒してくれるのは酒だけと毎晩のように飲み歩いていた時に偶然入った一軒の小料理屋、これがまさかの大当たり。
美人な男将と懐かしさを感じるツマミ、酒も数は多くはないが男将が厳選した数種類の日本酒とビール。
店が狭いことを除けば申し分ない、寧ろ美人にお酌してもらいながら呑めるならプラスだった。
「男将はさぁ、どう思うのよ。この国の男達をさ」
「皆んな立派じゃないですか、最近は男の出生率も少しづつ回復してるだとかで、皆んな頑張ってますよ」
「違うわよ、そんなのどっかの金持ちがヤリまくってるだけなんだからさ、クソー、私も金さえあればー」
「そんな物無くてもお客さんは十分魅力的だと思いますけどね」
冗談まじりに私の目を見ながら男将は笑う。
にっこりとした時に見える八重歯がとてつもなく可愛いのだ、股間にクるものがある。
ただ、見つめられるのは恥ずかしいので男将をからかってみる。
「そうだ、男将は美人なんだからさ、その容姿を使った商売を始めるのはどうよ、きっと売れるわよ〜」
「なるほど、じゃあどんなものを売り物にしたら良いか教えて欲しいですね」
からかってやろうと思ったのに、少し拍子抜けしてしまう、男将がこの手の冗談に乗ってくるのは珍しい。
だが、男の売り方とあれば黙っちゃいない、こちとら30余年拗らせてきたんだ、妄想の中でなら男を買いまくっているし、遊びまくっている、みくびらないでいただきたい。処女だけど。
「そうねぇ、まずは男将とのキスとかはどう、ソフトなやつからdeepなやつまで値段別に、みたいな」
「キスですか… 」
それなら、っと男将がカウンターの奥へと消えて行く。
直ぐに戻って来た男将は手にメモ用紙を持っていた。
なるほどアイデアをメモに纏めるのか、と思ったがそのメモを「どうぞ」と言って手渡して来た。
自分には一切必要無かったが、一応渡されたメモ用紙に目を配る。
【男将の一口 10,000円】
~男将が口に含んだお酒をあなたの口までお運びします~
【男将の深一口 20,000円】
~男将の口に入ったお酒を無くなるまで堪能できます~
「ぇへ?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう、というか目を疑う。
恐らくメニュー表と思われるものに意味深な注釈がついているではないか、つまりこれはそのそういう事だろうか、思わず男将の方へ目を向ける。
男将はゆっくりと口を開けて舌を、べえ、と出しながら「のんれみはいれす?」と可愛い八重歯を見せながら、私の事を笑顔で挑発してくる。
「これ、本当に?」
「ふふ、これ裏メニューなんです、常連さん限定ですけど」
裏メニューときたか、これは夢だろうか、呑みすぎでいつの間にか寝ていたのかも知れない。
思わず頬を思いっきり抓る、痛い、どうやら現実のようだ。
やはりこの店は大当たりだった、偉いぞ私。
「嘘じゃないわよね」
「嘘だと思うなら下げちゃいましょうか?」
「待って待って待ってッ! 別に疑ってる訳では無くて、本当にシテいいってことよね、後から警察なんかに行くわけじゃないわよね?」
「行きませんよ、もう注文されないなら返してくださいね、下げますから」
「頼む頼む頼みます! ちょっと待って財布確認するから!」
勢いよくカバンを掴んで財布を取り出して残金を確認する、確か昨日に給料日までの1週間をやり繰りしようと20,000円ほど下ろしたばかりだったはず、と財布の中身を凝視する。
やはり財布の中身は24,000円と小銭が少し、ここはカードが使えないから現金で払うしか無いので、今日呑んだ分の酒やツマミの代金を考えても3,000円とちょっと。
頼める、頼めてしまう”男将の深一口”。
だが、私の泣けな消しの24,000円、これを使えば給料日までもやし生活は必然、でもコレを逃せば裏メニューなんて出してくれなくなるかもしれないし。
ええい、ここまできたら女は度胸、男将のぷりぷりとした唇と長くてえっちな舌を堪能させてもらおう。
先の生活より目の前の”性活”よ。
「こ、これを一つ」
恐る恐る、メモに書かれたメニューを指差して男将へ見せつける。
「男将の深一口、ですね。では準備致します」
笑顔でそう言ってカウンターの中から私が居る客席へと移動してくる男将、手にお猪口と日本酒が握られている。
「隣失礼します」
笑顔のまま私の隣へ腰掛ける男将、肩がぶつかるくらい近い距離に年甲斐もなくドキドキしてしまう。
男将はそのまま手に持った日本酒をお猪口に注いで、中身の日本酒をグイッ、と口に含むと、そのまま天井を向いて口を開けたまま言う。
「どあぞ」
思わず立ち上がって男将の口の中を確認する。
男将のピンク色の口内に透明な日本酒がキラキラと漂っていた、この光景はなんとも扇状的で興奮する。
「じゃあ、あの、失礼して。いただきます」
ぎこちなく挨拶して男将の顔に手を当てる、んっ、と声がするが嫌がっては無いようなのでそのまま自分の舌を男将の口内へ侵入させてまずは酒を味わう。
ジュルジュルと男将の口内から酒を吸いだすように乱暴にキスをすると、甘くフルーティな香りが鼻を抜けて、強いアルコールの熱が喉を伝わってくるが、正直味なんて殆どわかっていない。
口内に酒が無くなっても唇は離さない、そのまま舌を絡ませ、ねちっこく男将の口内を犯していく、男将の舌をちゅうちゅうと吸い、舌の根をペロペロと舌で撫でてやると、あっ、と言った声が漏れる、これがたまらなく私の本能を駆り立てる。
ほんとうに男将の舌を食べている、そんな感覚だった、酒も入っているからなのか身体が熱い、正直アソコも濡れているしこのまま男将を壊れるまで堪能したいと思っていた。
ただそんな時間も終わりがくる様で、肩をポンポンと何度も叩かれ、男将の唇が銀色の橋を掛けながら離れて行く。
「はぁ… はぁ… いかがでしたか?」
くちびるを拭いながら問いかけてくる男将の顔は酒のせいか火照って見えて、より興奮してしまうのだった。
ガラガラッ
あの後は本当に何事もなく、火照った身体を鎮めるように出された冷水を飲んで、お会計を済ませて帰路へ着いた。
なんだか酒だけせいではなく身体がポカポカしている、心もなんとも言えない充足感があって大変満足していた、明日からのもやし生活も全然気にならない。
「節約して何回も通おう。」
そう呟いて私は誓いを立てるのだった。
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近所のスーパーのもやしは27円。
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