最近の小学生はマセてます 前編

キーンコーンカーンコーン


授業の終わりの鐘が教室に響き渡る、1年間担当してきた3年2組も別れの時期が迫っていた。


「はい、みんな忘れ物の無いように、机の中の物は全部持って帰ってね」


教卓から声をかける担任教師は歳の若い男性だ、今年を境に来年には違う学校へ転任する予定になっていた。


「やだ、先生、お別れしたくないよ!」


ガタッ、と席を立ち上がり大きな声で叫ぶのは、学級委員長の女の子だ、普段から面倒見が良く、クラスでも尊敬されている子だ。

彼女は彼に対して特別な感情を抱いているのだった。


『私も! 私も!』『先生! お手紙書くからね!』『先生がいなくなるなら、私も転校する!』


委員長を皮切りにクラスメイトも次々と声を上げだす。


このままでは止まらなくなると思い、すかさずフォローを入れる。


「大丈夫だよ、ずっとのお別れじゃないから、皆んながしっかりと良い子にしていれば、いつかまた会えるよ」

「いつかなんて嫌です! 私は先生と一緒がいいんです、お別れなんて絶対したくない!」


ギュッ、と握った手に自然とに力が入り、頬を水滴が伝っていく、彼女の想いはそれだけ強く真剣だった。


「あぁ、困ったな。ではこうしようか、10年後もそう思ってくれてたなら、その時は皆んなにまた会いに行くよ、それでどうだろう」


どうせ忘れるだろうという軽い口約束のつもりで発した言葉だったが、教室がザワザワと騒めく。

委員長も少し驚いた様子で顔を俯けてしまった。


「10年後… 絶対…」


彼の言った言葉を確かめるようにブツブツと繰り返す、声が小さくて彼には聞こえていないようだった。


「先生… 絶対だからね、絶対! 忘れてたらクラスの全員で見つけ出して、先生は一生私達のモノにするからね!」


顔を上げて叫ぶように宣言する、その顔は真剣そのものだったが、彼は、所詮ドラマかアニメの台詞だろうとあまり気にしてはいなかった。

寧ろ、次の学校では家庭訪問の際にどんなテレビ番組を見せているのか聞いた方が良いかもな、と少し考えてしまう。


子供達も今は小学生だが、10年後には立派な成人となる、この国の女性は18歳から結婚が認められているので、早ければ結婚を決めている人も居るのかな、と心の中で子供達の未来を想像する。


「わかった、”絶対”だから、忘れ物無いように今日は帰りなさい」

「… 10年… 絶対。」


また少し俯いて噛み締めるように言葉を繰り返す。


委員長、聞いてるのか?、とそんな彼女に彼は声をかける。


「はい、先生! “絶対”だからね。」


顔を上げた彼女は満面の笑みを向けながら最後にそう言うのだった。


特別な想いは、いつまでも色褪せないと知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る