CAはセクハラやナンパの温床 前編

「お飲み物はいかがですか?」


「ホットコーヒーをいただこうかな」


畏まりました。と紙コップに適温のコーヒーを注いで行く、忽ちコーヒーの良い香りが辺りを包んでいく。


「お待たせ致しました。」


丁寧な所作でドリンクホルダーへとコーヒーの注がれたカップを置く。


「ありがとう、美人が入れてくれたコーヒーは格別だよ」


そう言って乗客はコーヒーを口に含み、CAの彼を上から下まで舐めるように見つめてくる。


「美人だなんて、ありがとうございます」


こういうやり取りは日常茶飯事で、酷い時にはボディタッチをしてくるようなこともある、彼は社交辞令的に言葉を交わしすぐに別の乗客の元へと向かうのだ。


あの後、同じようなセリフを吐かれることもあったが特に大きなトラブルは無く、順調に業務をこなしていた。


彼はこの業務に従事して4年目であり、この会社で数名しかいない男性のCAだった、今日はお隣の国までの約2時間と少しのフライト、順調に行けば後1時間30分程で到着するはずだ。


「お疲れ様、今日も乗客さんからのセクハラ凄かったわね、特に3列のDさんの目付き、あれはキミの服の下妄想して興奮してたわよ」


「あはは、もう4年目なんで慣れたもんですよ」


労いの言葉をかけてくれた彼女は先輩CAだ、彼の2年先輩で、このフライトのチーフパーサーを勤めている。人望に厚く、責任感を持っている頼れる存在だ。


「そんなこと言って無理してない? あの人絶対に降りる時に連絡先渡してくるわよ、ちゃんと断りなさいよ?」


「今日はお触りが無かっただけマシですよ。連絡先は気をつけるようにします」


「ただでさえキミは美人なんだから、仕事なんか辞めて家庭に入った方がいいわよ。私だったらキミに働かせることなんてさせないわね」


そういう彼女の言動もセクハラである、乗務員からのセクハラも彼にとっては良くあることだ。


「あー、結婚はまだ考えて無くて、色々な国へ行けるこの仕事が気に入ってますし、皆さんと仕事するのが好きなんですよ」


「へぇー」


望んでいる回答では無かったのだろう、相対する彼女の表情は不満そうだ。


「あ、そうだ、機長達にドリンク持って行ってきます」


少し気まづい雰囲氣になったので、それ以上会話を続ける気になれず、足早にその場を離れるのだった。


__________________________________________


後編は明日の20時更新です。

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