Postmodern

亜未田久志

あのポリコレクソドラマに救われた人だっているかもしれない


 紅玉rubyの私は藍方石lapis lazuliの星空に救われた。

 確かに私達は災疑神サスビスゴッドを倒したんだ。

 中学生の私達にはあのドラマがすごく素敵なモノに思えて。

 私達もまたきっとあんな風になれると信じて止まなかった。


 金糸雀カナリア・ルビーループ 中学一年生相当 未分類

 ウグイス・ラピスラズリ 中学二年生相当 未分類


 何故、私達が未分類なのか、それは学校に通えていないからだ。 

 災害は何もかも私達から奪って行った。

 彼の大地震で私達の家族は多大な被害を受け、私達は行方不明者リストに載った。

 此処にいる。私達は此処にいるのに。

 両親を亡くし、行き場を無くした私達に国家は救いをもたらさなかった。

 無慈悲な「孤児院」行きの通達、名字も奪われ、祖国に帰る事も許されず、瞳の色だけでテキトーに名前をつけられた。

 当然だろう、その時は誰も私達の事を遠心少女だと知らなかったのだから。

 憎き孤児院の院長は私達を「忌み子」扱いした。


「ねぇカナリア、私、空が飛びたいな」

「アニメの見過ぎ」

「ドラマしか見てないよ?」

「「遠心少女!」」


 二人、声を揃えて言った。

 英語部分はまだ読めなかったのでサブタイトルで覚えている。

 勉学すらまともに受けさせてもらえないのだ、私達は。


 二人、裏山でこっそりと遠心能力を使う。

 これは二人だけの秘密だった。

 バレたら大人たちからなんて言われるか分からないから。


 全天の星空、回る視界、揺れる木々、世界の輪舞。

 中空に舞う身体。ルビーループは確かにその身を宙に浮かせていた。


「どこまで行けるかな?」

「どこにも行かないで!」


 一人残されるラピスラズリ。

 二人は抱き合った。

 

 落ちる落ちる。

 墜ちる墜ちる。

 堕ちる堕ちる。


 二人はおちた拍子に唇を交わしていた。それは偶然の事だったけれど、赤面するには十分な出来事だった。

 だけどルビーループは。


「もっかい、してみる?」

「は、はぁ!? ばっかじゃないの!?」

「馬鹿とは何よ!」

「馬鹿だから馬鹿って言ったのよ! そんなこともわからないほど馬鹿になったのかしら!」


 その大声に釣られて大人たちが私達を回収しに来た。それ以来、ラピスラズリには会ってない。

 一ヶ月は経った。

 孤児院で定期的に行われる送別会。

 里親の下に行く子を送る会。

 そこにラピスラズリの姿があった。


「鶯!?」

「……」

「えー、鶯・ラピスラズリさんはそのを認められ、晴れて新南陽総合支援学校に通える事に――」


 憎き院長の演説など聴きたくなかった。

 私は、金糸雀・ルビーループは確かに力を使った。

 回る周る廻る世界がまわる。

 円環の輪に飲まれ、世界が書き換えられていく。

 騒めく子供達、急いで院長がその場から皆を逃がそうとする。


「どこまでも邪魔するんだね、私の災偽神」

「絶対逃がさない、渡さない、あなたは私のものだから!」


 その日、極地的な発光現象が東北を見舞った。

 事故として処理され、被害者はゼロ――


「そんな嘘ばっかり」


 金糸雀・ルビーループは独りきり。

 廻る世界に引きこもった。

 その紅玉を抱えて鶯・ラピスラズリは一言だけ。


「馬鹿みたい……」


 とだけ呟いた。




 追伸、なんなんすかねコレ。

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