いざ王都
王都へ出発する日の早朝、俺はゴートと最後の訓練をしていた。
「ふっ!」
ゴートの素早い一振りが、脇腹に滑るように入ってくる。それを体を少し捩らせて木剣で受け流す。これは最近覚えた技だが、俺の『絶対不可避』は回避はできないが、一旦攻撃を受けてから避けるようにいなす事はできるようだ。
「せい!」
今度は俺の上から叩きつける様に振る一撃が、ゴートの脳天に落ちる。しかし、これはあっさりと躱され反撃の突きが飛んでくる。
鋭い突きは見事に俺の額に直撃し、後ろに吹き飛ばされる。
「いだぁぁぁ!!」
「はっはっは、まだまだだなコウイチ」
倒れた俺に手を差し伸ばしてゴートは言う。
「だがさっきの受け流しは良かったぞ。最近は反射で避けようとしてしまう事も少なくなってきたし、後は実践経験を積むだけだな」
「ありがとう。でも最後ぐらい勝たせてくれても良かったんだよ?」
差し出された手に起こし上げてもらいながらヒリヒリと痛む額をさする。結局最後までゴートには勝てなかったな、流石だよとゴートを褒める。
ゴートは鼻の下を人差し指で擦って自慢げに笑う。これはゴートの癖だ。誉められたりすると照れ隠しで鼻の下を指で擦る。つまりその瞬間は片手がお留守な訳だが…
「隙あり!」
ガラ空きの胴に一閃。最後ぐらい不意打ちでもいいから一撃食らわせてやる!
次の瞬間、ガンッ!っという音と共に俺の木剣は宙に舞っていた。
「いい攻撃だが、まだまだ鋭さが足りんな」
ゴートは完全に不意を突いたはずの俺の攻撃に反応して、剣を振り上げる形で弾いていた。
不意打ちしても当てれないなら勝てねぇよ。化け物かこのおっさん。
「不意打ちでもいいから攻撃を当てようとする気概はいい事だぞ」
そろそろ終わるかと言ってゴートは家へと歩き出した。
王都への馬車はもう少しで来る。家へ戻り、身支度をし終えるとガジは俺を居間に呼んだ。
「これは今までの仕事を手伝ってくれた礼だ」
そう言ってゴートはお金の入った皮袋を俺の前に置いた。俺は今まで特にお金を使う理由がなかったので生活費を差し引いてもらって、お金はゴートに預かってもらっていた。
「ありがとう」
俺は皮袋を受け取りながら感謝を伝える。
「本当に行くのか?俺はいつか王都に戻るが、お前さえよければこの家は使ってもいいんだぞ?」
「そこまでしてもらうわけにはいかないよ。それにあまり長く一つ所に留まるのも良くないと思うから」
「そうか」
ゴートは少し待ってろと言い席を立つ。
「これを持ってけ。餞別だ」
そう言うとゴートはテーブルの上に短剣を置いた。
「こんなの貰っていいの?」
「御守りみたいなもんだ。王都に行ったら武具屋に行って自分に合う武器を調達すればいい」
できれば剣を使う様な仕事には就きたくないのだが…
短剣を抜いて見てみるとよく手入れされている様で、刀身は光を反射する程綺麗で、重さも軽すぎず重すぎず、手に馴染む様に感じた。
「ありがとう、ゴートには世話になってばっかりだな」
「そんな事はない、俺もお前には色々と世話になった。特にコウイチの料理はうまいからな。これから食えなくなると少し残念だ」
「俺でもそこそこ作れる様になったんだからゴートも料理の練習しろよ」
笑いながら他愛無い話をして馬車をが来る時間を待った。
しばらくすると外から馬車の音が聞こえてきた。
御者に王都までの運賃を払い、荷台の前でゴートに別れを告げる。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
「ああ、元気にしてろよ。俺もじきに王都へ戻る。その時はまた飯でも食おう。できれば恋人ぐらい作っておけよ」
「親か!俺より先にゴートが恋人作れよな」
「お前みたいな若造に心配されんでも大丈夫だわ!」
お互いに笑いながら俺は荷台に乗り込み、馬車が動き出す。
「コウイチ!剣の鍛錬は怠るなよ!」
ゴートは見えなくなるまで俺を見送ってくれた。
それから半日ほど馬車に揺られ、王都の入り口に着いた。
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