一休み
「お客さん、王都に着きたしたぜ」
馬車が止まり、御者に声をかけられる。
尻が痛い。馬車がこんなに揺れるとは。まぁ舗装もされてない道ならこうなるか。尻をさすりながら荷台から降りる。
「おお!」
顔を上げると、目の前には高さ10mはありそうな、石でできた壁と木を鉄の留め具で加工した大きな門が現れた。
「でけー」
感心しながら門の方へと歩を進める。壁といい、開いている門から見える街並みといい、まさに西洋って感じがして少しワクワクする。
「そこで止まれい!」
門の前に着くと、甲冑を着込んだ門兵らしい人に止められる。門兵は近づいてきて俺の顔をじっくり見ると、
「よし。手配書などには載ってない様だな、では通行料を」
と銅貨20枚を要求してきた。
俺が異世界に送られた時に与えられた情報では銅貨1枚は日本円にして約100円、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金
貨1枚といった換算らしい。ちなみに大人1人が1日過ごす分には銅貨30枚ほどあれば十分といった程度だ。
俺は門兵に皮袋から出した銅貨20枚を渡すと門をくぐって王都の中へと入っていった。
とりあえずは今日の宿を探さなくては…王都の街を歩きながら宿を探す。それにしても、さすがは都会といった所か活気に溢れている。石畳で舗装された道の脇には所々に屋台があり、装飾品や食べ物が売っている。
人の量もタートス村とは比べるまでもなく、剣や弓を携えた若者や、豪華な装飾品を身に付け、荷物持ちだと思われる人と護衛を引き連れた商人の様な人等、様々だ。
その中でも一際目についたのは、ロッドの様なものを持ち、鍔広のとんがり帽子をかぶった人を何人か見かけた。
魔法使いだよな、あれ。この世界って魔法あるのか、ファンタジーって感じでいいねぇ。俺も使えたりするんだろうか。もし俺が使えたら絶対に回避できない魔法使いになれて、この世界で無双とかできるのでは?
などと考えながら屋台に売っていた串焼きを頬張っていた。
「なあおっちゃん」
串焼きの屋台の店主に話しかけてみる。
「なんだ坊主、もう一本か?」
「いや、これはめちゃくちゃ美味しいけど、聞きたいことがあってさ」
俺はこの辺の宿の場所を店主に聞いてみた。一番近い宿はこのまま王都の中心に向かっていく道を少し行けばあるらしい。俺は礼を言ってもう一本串焼きを買って宿に向かう。
宿の外観は街に並ぶ家々と大した変わりはなく玄関の上に[コルト亭]とだけ書かれている看板をつけているだけだ。中に入ってみると、一階が食堂になっているらしく、すでに何人かがテーブルにつきご飯を食べていた。
店員はどこかと入り口で店内を見渡していると、
「いらっしゃい!お泊まりですか?お食事ですか?」
よく通る大きな声で俺と同じ歳ぐらいの金髪の可愛らしい女の子が話しかけてきた。
「泊まりたいんだけど、部屋あるかな?」
「お泊まりですね!おばあちゃーん、泊まりのお客さんだよー」
女の子が呼ぶと厨房らしき所から両手を腰の後ろで組んだ小さいお婆さんが出てきた。
「じゃあ私戻るね。お客さん、ぜひ食堂もご利用して下さいね」
そう言って女の子は食堂の方へと戻っていった。
その場には俺とお婆さんが残された。
「お泊まりでしたね、素泊まりなら銅貨15枚、三食の食事付きなら銅貨40枚ですが、どうされますか?」
どこか落ち着く声で尋ねられる。
「えっと、じゃあ食事付きでお願いします」
相場は分からないが、多分安い方だろうと思い、銅貨40枚をお婆さんに渡す。
「それじゃあお部屋に案内しますね」
お婆さんは二階へと続く階段を登っていく。通された部屋は二階の三部屋並んでいるうちの階段から一番離れた奥の部屋で、中はベッドと机と椅子だけが置かれたシンプルな造りになっていた。
「お食事は朝、昼、晩でお好きなタイミングで来て下さい」
それでは、とペコリと礼をして戻っていった。
「ありがとうございます」
ポツリと部屋に残された俺は、とりあえず今の所持金を確認しようと机の上に皮袋の中身を出してみる。
銅貨 13枚
銀貨 7枚
金貨 5枚
なんか多くね?こんだけあればしばらく遊んで暮らせるぞ?
ゴートの手伝いをしていたとはいえ、こんなにあるのは明らかにおかしい。多分だが、ゴートがいくらか足してくれているのは間違いない。
「あの人は聖人か?」
ゴートに感謝しつつ、無駄遣いしないように慎ましく生きようと決めた。
「飯の前に風呂入るか」
大衆浴場の場所を聞こうと思い、荷物を置いて、部屋に鍵をかけて下に降りると、さっきの女の子がいた。
「あ、ご飯ですか?」
「いや、その前に風呂に行こうと思うんだけど、どこかな?」
女の子は懇切丁寧に大衆浴場への道を教えてくれた。
「ありがとう。えーとっ…」
「シャロットです」
「ありがとうシャロット。俺はコウイチ。しばらく泊めさせてもらうつもりだから、よろしく頼むよ」
シャロットと別れて風呂に入り、帰ってからご飯を食べてその日は寝ることにした。
明日はいよいよ仕事探しだ。
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