途中経過


 吐く息は白く、辺りは白銀の雪に覆われ、木は葉を散らし、殺風景な景色が広がっている。そんな森の中を俺は今、息を切らしながら走っていた。


「はぁ…はぁ…、あと少し」


 走るのを一旦やめ、木影に隠れながら独り言を呟く。


 その数瞬後…


 ズシン、と木を挟んだ背後から重たい音が聞こえる。

 息を整え、覚悟を決めて木から飛び出して走り出す。

 木から飛び出した瞬間、背後から低く重い、身体に響くような大きな音が鳴る。

 後ろをちらりとみると、そこには音の主である体長3メートルはあると思われる熊のような見た目の魔獣が自分に向かって6本の手足を使って走ってきている。


「怖い怖い怖い!死ぬって!」


 降り積もった雪に足を取られながらも全力で走る。

 すぐに目印の為に✖︎印に置いた木の枝が見えた。踏まないようにその上を飛び越えてから魔獣に向き直す。

 熊のような魔獣は依然こちらに向かって走ってきている。

 俺は腰に差している牛刀より一回りほど大きいナイフを抜き臨戦体制を取る。

 魔獣との距離がどんどん縮まっていく。


 

 10メートル…7メートル…5メートル

 


 魔獣が目印の木の枝を踏み抜く。すると雪の下に仕掛けていたロープが魔獣の足を縛り付ける。

 魔獣は急に足を取られた事で体勢を崩す。それを見計らい声を上げる。



「今だ!ゴート!」



 俺の声に反応し、ゴートがすぐそばの木陰から両手剣を構えて走ってくる。

 魔獣はゴートに気づき、体勢崩しながらも鋭い爪のついた手を払うように振る。

 ゴートは魔獣の攻撃を剣でガードするも、耐えきれず少し後ろに吹き飛ぶ。

 俺はふと魔獣の足のロープを見ると今にも切れそうになっていることに気づく。

 すかさず俺は持っていたナイフを魔獣に投げつける。

 ナイフは見事に魔獣の肩に突き刺さり、怯ませることに成功した。

 その一瞬の隙を逃さず、ゴートは魔獣の首に剣を振り抜く。


 雪の上にどさりと魔獣の首が落ちる。

 少し遅れて首のなくなった胴体も地面に倒れる。


「うおおおおおおおおおおおし!!」


 ゴートの咆哮が森に響く。

「やったなコウイチ!」

「死ぬかと思ったけどね」


 ゴートは笑いながらソリを取ってくると言って場を離れた。

 俺は安心からほっと一息つく。


 ゴートの仕事を手伝うようになってから1年半が過ぎた。

 今回は冬になりタートス村の近くに熊型の魔獣が出たという情報が入ったのでゴートと一緒に森に入って討伐に来たというわけだが、こんな大型の魔獣との戦闘は初めてだったので緊張からかひどく疲れた。


 しばらくするとゴートが戻ってきて、二人で魔獣をソリに乗せて村への帰路に着く。


 村の門の前には相変わらずサクの姿があった。

「ゴートさん、コウイチおかえり!」

 挨拶をしながら俺たちの後ろの荷物を見てサクは驚く。

「それってもしかして…」


「ああ、俺とコウイチで倒してきたぞ」

「俺の見事な活躍をサクにも見せてあげたかったよ」


 俺のドヤ顔を見て、サクが訝しみながら、

「どうせコウイチは囮になるぐらいしかしてないだろ?」

「そんな事ないわ!まぁ囮は合ってるけど…、ナイフを投げて隙を作ったりしたわ!」

「ははは、悪い悪い冗談だよ」

 

 サクは俺たち二人に労いの言葉をかけて村長のところに報告に行くと行ってその場を後にした。




 家に着き、魔獣の解体を一通り終えた後、ゴートと剣術の訓練を始める。


 お互いに打ち合いながらもゴートにはしゃべる余裕がある実力差だが、

「最近は随分動きが良くなってきたなコウイチ」

 すでに狩りでヘトヘトの体を動かしながらも答える。

「そう?なら攻撃当たってくれてもいいんだよ?」

 ゴートは笑いながら喋り続ける。

「お前さんの『絶対不可避』の能力に始めは驚いたが、避けれんだけでガードはできるからな」


 この一年半でゴートに剣術の訓練をつけてもらって分かったことがいくつかある。

 俺の『絶対不可避』の能力は攻撃は当たるが、ガードはされてしまうという事、それは相手も自分も同じらしい。仮に避けようとしても相手が何故か動けなかったり、自分の攻撃の軌道が逸れたりして、必ず相手に当たるという事。

 後、俺には少しだけだが剣術の才があるらしいという事。これは俺がゴートに勝てたことが無いのであまり自信はないが。

 これも後から知ったのだがどうやらゴートは王国の騎士団に所属している騎士らしい。そんな人がなんでこんな村にいるんだと聞いたら、色々あって長期休暇を貰っているらしい。色々の事は教えてくれなかったが…。


 剣術の訓練を終え、風呂に入り、ご飯を終え、眠りにつこうと、かつて客間だった自室に戻ると部屋の中に人が立っていた。明かりがないので顔が分からない。

「え、誰?」

 謎の人物が俺の声で振り返ると同時に窓の外の雲の切れ目から月明かりが差す。


 そこには真っ赤な髪に真っ赤なドレスを着た、俺を異世界に送り込んだ張本人、クレナがそこには立っていた。



「久しぶりやな、ツガヤマ コウイチ 

          クレナちゃんが経過観察に来たったで」

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