第16話・何でもアリ容疑の五丈家
喉を潤して一時の休息を味わった尚人たちは、約5分後に更なる未千恵の話しを聞く事になった。
ある意味一番の山場であった、園川家との関係解消や健吾の離脱などの話が終了した事もあり、麻子は既に元の調子に戻っていた。
「それでは話の続きと行きましょうか。尚人くんの隣の家は、当面の間は麻子に世帯主をやってもらおうかなと思っているの。ここへ戻ってくる前に話していた、地下の拡張工事の際には立会人が必要というのもあるからね」
「契約型メイドでなくなった途端に、今度は家持ちかつ世帯主!?何か一気に責任が重くなったような気がするのだけど……」
突然の任命に、戸惑ってしまう麻子。今までは何らかの形で誰かの下についていたのだが、これからは自分が上の立場として動く必要性が生じたのだ。
「まあ安心しなさい麻子、わからない事があったら連絡してくれれば可能な限り手を貸すから。それに工事が終わったら、後は好きなところで過ごしていいのよ?……そう、何なら人が来る時以外はずっと尚人くんの家に居続けても……」
この提案に、麻子の心は著しく揺さぶられた。すぐ隣に持ち家があるものの、尚人の家に自由気ままに往来可能という美味しすぎる状況。これを想像した麻子は一気に顔がにやけ、幸せそうな笑みを浮かべていた。
「うーん、お姉ちゃんってよっぽど今まで自分の本心を抑え込んでいたのね。我慢する必要がなくなった途端にこの変わり様……」
「麻子さんの部屋の整理が完了したら、荷物を選定した上で運び出すのでしょうけど……送り先はどこになるのでしょう?」
「……今、俺もそれを考えていたところだ。俺の家はもう空き部屋は残ってないし……待てよ、親父の部屋を割り当てるか?以前麻子が来た時はお袋の部屋を貸したが、今は未千翔にあげたしな……」
尚人の家に麻子が住み着く可能性が高まってきたところで、荷物の置き場所および麻子の暮らす部屋の心配を始めた尚人。
一方で麻子が管理・保有を任される事になる隣家は、これから家の中が綺麗になる予定なので空き部屋だらけとなる。
「空き部屋が大量にある、麻子さんの家に未千翔さんも移った方がバランスが取れるのではないかしら?」
「嫌です、せっかく尚人くんと同じ屋根の下で暮らせるようになったのにまた離れる何て。……とは言え、確かにあの家を遊ばせておくのもアレですよね……」
依子の提案を即却下した未千翔であったが、ほぼ丸々空き家となる隣家を無駄にする訳にもいかない。
「ねぇ、今あたし思いついたんだけど。2軒の家を物理的に接続して、往来可能にとか出来ないかな?」
「なるほど、その手があったわね。まだ地下の拡張工事も始めてはいないけれど、寧ろ今のうちに再考案してしまいましょうか」
麻子が思いついたアイデア、それは2軒の家を繋ぎ合わせ、渡り通路を設けて往来可能にする工事。どちらの家にも多少手が加わるが、あまり大がかりな変更は加えずに済む。
それに加えて朝のうちに提案された、地下の拡張工事。地上と地下、双方をがっちり繋げて深沢と五丈隣家を一つの家として纏めてしまおうと言う事だ。
「どうかしら尚人くん、後はあなたの返事一つとなるのだけど……」
少しの間、2軒の家がくっついたイメージをしていた尚人だったが、回答を要求された尚人はその答えを返す事にした。
「いいですよ、その工事もやりましょう。お隣さんだった家同士が一つにくっつく何て、かなり面白そうだ」
「やった、提案した甲斐があったわ!ありがとう尚人、あたしの提案を受け入れてくれて。これで同じ屋根の下でみんな暮らせるようになるわね未千翔」
「そうだね!最初に家同士を繋げるって聞いたときはちょっとイメージし辛かったけど、簡単に話が進んでいく様子を見てたら前例がきちんとある工事内容なのもわかったし……」
これで、2軒の家を一つにする事が決定事項となった。工事に関係する話が片付いた事により、次の話へと移行する事になる。
◇
その後も話し合いは進み、ポータルボールの使い方を記したマニュアルを受け取ったり、桜花連合の生産拠点を一部ではあるが割り出した事などが告げられた。
やはり未千恵の懸念通り、廃屋などを隠れ蓑にして地下に生産拠点を建設していたりなど、様々な方法で戦力となる戦闘ロボットを生産しているようだ。
これらの拠点に関しては、五丈家が動いたと悟られないように適当なところに情報を流し、間接的に潰していく事になった。既に情報のリークは始めており、早ければ数日以内にはわかっている範囲内の生産拠点は機能停止する筈、との見込みらしい。
話し合いの途中で依子のアルバイト時間が定時になり、帰宅する事になったので未千恵は今回の話に付き合ってもらった礼の意味も含めて、普段より3割増のバイト料を依子に直接渡して帰らせた。
「ふふふ、五丈を敵に回した事を後悔するといいわ……。企業相手とは違って、連中は一般目線から見ても迷惑しか振り撒かないから潰すのに何の躊躇も必要ないわね」
既に未千恵の中では、桜花連合を潰す事は決定事項のようだ。世間に迷惑を振りまいた武装集団を鎮圧するという大義名分もまだ公表してはいないが、一応通りそうな状況でもある。
仮に通らなかった場合は、先に手を出してきた相手に反撃をしただけと言えばいいだけなので、ぶっちゃけ何とでもなる。いずれにしろ、未千恵は桜花連合を許すつもりは到底なく、完全にこの世から消す腹積もりでいた。
「……とは言え、尚人くんたちに矛先が向く可能性もこれから十分に考えられるのよねぇ。昨日交戦した事で、どこかのタイミングで容姿を記録されただろうし」
襲われる事そのものは今後を考えると十分に想定されるため、後はその対処方法を考える必要があった。
昨日は離脱した健吾を含め5人で迎え撃ったが、彼は実家に戻されたため今後は頭数としてカウントすら出来ない。そして未千恵も常に手助けを出来るわけではないため、尚人・麻子・未千翔の3人でこれからは戦っていく必要があった。
「……よし、決めた。みんな、いったん西館の科学ラボに向かいましょう。これからに備えて、有用なアイテムがあるかどうかをチェックしに行くわ」
「科学ラボ!?そんな施設まで併設されてるのかこの屋敷は!!」
科学ラボまでが敷地内に入っているとは全く予想しておらず、驚きを隠せない尚人。そこに、未千恵がニコニコしながら語り掛ける。
「私が接種を受けた不老不変薬や、尚人くんが使用した技能カプセルもそのラボで製作した代物よ。さっきマニュアルを渡したポータルボールも当然、ラボで作られたの」
「昨日私が使った、魔力回復の秘薬もラボ製だよ。製造コストが高くてまだ量産が難しいから、屋敷を出るときに1種類につき1つしか持って行けなかったの」
「コストが高いって……1つ開発するのにどれくらいかかるんだ?」
広大な敷地、そして外部からメイドを雇うほどの経済力を持つ五丈の家で『高い』と言うくらいだ。一般庶民が一生かかっても捻出できない額なのではないかと尚人は想像した。
「白紙の状態から新規で作る場合は、消耗品だと開発費で200から300万くらいはかかるかしら。そこから必要な材料などの調達などで追加で500万は見込んでいるわ。この予算内でもどうにか出来ない場合は開発中止もあり得るの」
「1つの新規開発プロジェクトで約800万……凄まじいな……」
尚人が想像した通り、コストは高額だった。新規で消耗品のプロジェクトを立てるだけで800万近くの額が確定で飛んでいく。
その後完成しても追加生産で新たなコストが発生するため、出来上がった道具を持ち出せるのは一人につき、一種類1個までと言うのも当然だろう。
「なら、このポータルボールは開発費どれくらいかかったの?聞くのが少し怖いけど……」
「それは、完成までに12億かかってるわ。様々な実験などを重ねて、開発完了までに3年半くらいの期間を要したから」
「げぇっ、12億!?このちっこいボールに、それだけの資産と技術が費やされてきたと思うと、手が震えてくるわ……」
想像を大幅に超えた開発費に、ポータルボールを手に持っている麻子が驚愕した。かかった期間と費用を聞いてしまった以上、別におかしな反応ではない。
(この一族、普段何やって利益出してるんだ……。いや、何か怖いから聞かない事にしよう)
平気で大金を投じられる五丈一族の、お金の出所が気になった尚人だがそれを聞いてはいけないような気がして、すぐに頭に浮かんだ考えを振り払った。
そのまま余計な事は考えないようにして未千恵の後をついていき、科学ラボの中に入っていく事となった。
……だが、このラボの中で尚人は先程までの話がほんの序の口でしかない事を嫌でも思い知らされる事となるのだった……。
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