第3話 解読のルール
【今は4時。最短距離で時を操作せよ。酒を献杯、背に刻め、凍える唇、未だ見ぬ茜空へ。間違えば爆発する】
『暗号には〝今は4時〟だとか、〝時を操作せよ〟ってあるね。〝12〟という数字と〝観覧車の形〟から【時計】を連想するのは
「うーん? 容易いの? そうかなぁ。確かに、今観覧車の12番のゴンドラが1番上の位置にいるから時計の文字盤みたいに並んでいるね」
『謎解き好きの人には分かるよ。連想ゲームなんだ。〝時を操作せよ〟っていうのは、操作スタッフである板出さんを表している。観覧車を時計に見立てて、操作せよって言っているんだ。おそらくその後の、【酒を献杯、背に刻め、凍える唇、未だ見ぬ茜空へ。】が操作する時刻を表していると思うんだけど……、うーん、分からないなぁ』
「えぇ? でもこのゴンドラを時計の文字盤に見立てて操作するのは分かるけど、それが何になるの?」
『謎が解かれて、もしかしたら何らかの仕掛けが動いて、爆弾のカギが現れるかも?』
「何らかの仕掛けって……、金庫のカギみたいに、左にいくつ、右にいくつ回すとカギが開く、みたいな? そんなことをしてもこの観覧車には何にも起こらないと思うよ?」
ゼルダの伝説じゃあ無いんだから。
僕はほぼ毎日この遊園地で働いている。そんなギミックが仕掛けられているとは思えない。
『他にも12と言えば12星座、干支、旧暦……、うん。やっぱり12は時を表す数字だ。暗号に書かれている以上、見逃せない』
「それはここがトゥエルヴランドだからってだけだと思うけど。早くしないと刑事さんに連行されちゃうよ。今は爆弾処理班を待つため、僕もここに置いておいてもらってるけれど……」
『へぇ、刑事さんがもう来ているんだ? その人も本当に刑事なのかな。偽物だったり?』
本当に何でもかんでもゲームだと思っちゃうのかな。彼は。
ゲーム感覚で【真実直通】にも登録したんだろうか。
僕の命も人生も、彼にとってはゲームのイベントでしかないんだろうか。
「偽物な訳無いだろう。ちゃんと警察手帳片手に名乗っていたよ。〝消し炭のタツ〟って言って……」
『タツ? ふぅん。待てよ? いや……、でも……』
突然シュダくんはブツブツと呟き始めた。こちらの話をまるで聞いてもらえない。
安楽椅子探偵よろしく、こちらの情報を伝えるだけで都合よく謎を解いてもらえるわけが無いんだ。
彼はDランク。謎解き好きのフリーター。そんなの、僕とそう大して差がないとも言える。
僕の方が現実の謎と遭遇している回数は高い。彼が遭遇しているのは非現実的で非日常的なゲーム。誰かが答えを用意しているイベント。失敗したら反省して次頑張ろう。リセット&再スタートできる代物だ。僕が背負っているものと余りにも違いすぎている。
お気軽に諦めることが出来る。
ご気楽に始めることが出来る。
簡単に世界を救うことも出来るし、
単純に世界を葬ることも出来る。
人生はゲームのようでいて、ゲームでは無い。
僕の命は、爆弾魔に握られているし、
僕の命運は、Dランクの彼に握られているのだ。
自分のことなのに他人事なのは、現実逃避をしているからかもしれない。
この事態を何とかしないといけないのに。
状況が切羽詰まっていて、何からどうしていいかが分からない。
謎の暗号、爆弾、観覧車の人質、いかつい刑事さん、園長からの疑い、お客様の命、僕の命……。ぐるぐると目が回ってきた。観覧車のように。言ってる場合か。
案の定、彼は
それがまるで
『うーん。事件の
ぐるぐると目が回っていた僕は、言われた事についそのまま反応してしまった。
「〝てんまつー〟? いや、〝てんまつー〟じゃないよ。僕が君に話したのは〝てんまわん〟の話だよ?」
『……? 今なんて言いました?』
「あぁ、そういえばこの事を伝えていなかったね。それに、まだホームページの方は更新してないのかもしれない。うっかり。今この観覧車は部分的に修理中なんだよ。トゥエルヴランドの観覧車『
本来観覧車操作にスタッフが2人必要なのは、ゴンドラが2つあるからだった。〝天摩1〟は正回転、〝天摩2〟は逆回転をする。もしくは〝天摩1〟が逆回転、〝天摩2〟が正回転するときもある。今は〝天摩2〟が修理中なため、スタッフは僕一人で運行している。
人が乗っていないため、説明は省いていた。
『どうして12のゴンドラの中心に4つのゴンドラが……、いや、まさか、そういうことか……?』
事件の遭遇率を過信していた。
僕なんて謎解きに関しては一般人以下だ。謎解きに強かったら、なんなら自分で謎を解いて自分への疑いを晴らすことも出来るだろう。それができないからこその僕なのだから。
探偵に必要な情報を渡すことが出来ていなかった。
僕のミスだ。
「ごめん、そうだったよね。シュダさんはここに来たことが無いから知らないし、見たことないもんね。伝え忘れていたよ」
『いや、わかったよ。暗号の謎は解けた。脱出成功だ』
電話口の向こうで彼が笑っているのがなんとなくわかった。
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