第2話 12の密室
トゥエルヴランド名物の観覧車、『
1周およそ15分かかるけれど、当園には展望タワーがない分、観覧車から見下ろす景色は大人気だ。
だがしかし今、操作係の僕が運行をとめているため、12組のお客様はゴンドラから降りられないでいる。15分かかってやっと降りられるゴンドラだけれど、今は絶対に降りられない。高所に位置する狭き12の密室にお客様は閉じ込められているのだ。
手首が出るくらいの窓はあるから密閉空間では無いけれど。
とても心苦しい。
だけれど僕も今、大変息苦しい環境にいた。
「吐け! お前がやったんだろう! 早くカギがどこにあるか吐くんだ!!」
園長の通報を受けてやってきたのはヤクザみたいな強面のいかつい刑事だった。
「特別事件捜査係三班!
絶対に爆弾魔事件にぶつけてはいけない刑事だ。
消し炭のタツが事件を終わらせるって、もうそれは絶対に爆発しているじゃないか。
「僕は犯人じゃありません! こんな爆弾なんて知らないんです!!」
観覧車の支柱にくくり付けられた金属製の箱にはカギがかかっていて、中からは『チクタク』と時計の音が聞こえていた。
「爆弾処理班が到着するまで30分! それまでにカギを渡せば未遂で逮捕してやる!」
爆死か未遂か。冤罪の僕からしたらどちらもアウトだが、僕が犯人ではないのでカギを渡すことも出来ない。家のカギを渡そうものなら二つの意味で家に帰ることが出来なくなるだろう。
冗談通じなさそうだし、この刑事さん。
いやまさに、非現実で非日常なこの事態。
冗談なんて言っていられないくらいの非常事態だ。
時が一刻一刻、あっという間に過ぎ去っていく。
爆弾はタイマーが見えないから逆に怖い。次の瞬間には爆発してしまうかもしれない。
僕は【真実直通】で呼んだ調査員の方に助けを求めた。
彼は探偵ランクD。探偵ではなかった。
『ボクの名前はシュダ。謎解きイベントが大好きなフリーターだよ。よろしくね、板出さん』
電話口を挟んで軽く挨拶をした。
僕は血の気が引いた思いだった。
本業の探偵さんではなく、フリーター。
人の命が掛かった爆弾魔事件にランクDの調査員では荷が重いのではないだろうか。
『今ボクもそっちに向かっているよ。とりあえず情報が欲しいから、なるべく正確に、詳しい情報を教えてくれないかな。謎を解くにはまず情報共有が大切だからね』
僕は、現状をかいつまんで説明した。
僕自身が遊園地の観覧車の操作スタッフであり、現在観覧車には12組のお客様が乗っていて、満員。お客様はゴンドラという密室に閉じ込められている。
【今は4時。最短距離で時を操作せよ。酒を献杯、背に刻め、凍える唇、未だ見ぬ茜空へ。間違えば爆発する】
という爆弾予告が届けられており、ゴンドラは一時停止している。
『ふぅん。暗号だね。面白い、ゾクゾクするね。謎解きゲームみたいだ』
「これはゲームじゃない。現実の事件なんだよ」
そして僕は現実に容疑をかけられ、現実に逮捕される運命にある。
僕が逮捕だけで済めば良い。最悪この遊園地で遊んでいる何千人ものお客様の命もかかっていると言っても過言じゃ無い。
園内がパニックになるため、情報規制をしていた。観覧車は止まっているけれど、園内のスタッフは他に爆弾が仕掛けられていないか秘密裏に探している。
『でも、この事件の犯人はゲーム感覚で予告状を出しているんだ。それなら、そのゲームのルールに準ずることがゲームクリアに必要な条件だと思うね』
暗号を解くためには、犯人側が提示しているヒントをうまく拾うことが大事なんだよ、と彼は言った。
「ヒントって言っても、僕は何がヒントなんだか分からないよ」
『何でもいいから目に見えるものを説明してよ。ボクはその場に居ないんだから、その場に居ないボクにもわかるようにさ』
えぇと、何から説明すればいいのかな。
観覧車のゴンドラには1から12まで数字がついている。
1番のゴンドラには黒い帽子の男性と赤いカバンの女性のカップル。
2番のゴンドラには老人の男性(メガネ)。
3番のゴンドラにはこども3人。
4番のゴンドラは短髪のメガネの男性。
5番のゴンドラにはトゥエルブーのカチューシャをつけた女子高生二人組。
6番のゴンドラにはスーツ姿の男性二人組。
7番のゴンドラには高校生カップル。
8番のゴンドラにはベージュのセーターを来たお母さんと子供。
9番のゴンドラには薔薇柄シャツの女性。
10番のゴンドラにはボーダー柄シャツの青年。
11番のゴンドラにはキレイなお姉さん。
12番のゴンドラには忍者のコスプレをしている人。
6番のゴンドラにお客様が乗り込んだところで異音がしたので一時停止をした。番号は時計回りに並んでいる。
『……随分詳しいね』
「1周したらお客様を降ろさないといけないので、簡単な特徴をメモしてるんです」
『ふぅん、客の中に犯人がいる可能性もあるわけだ』
「いやいやいや! 密室に閉じ込められていて、一番の被害者じゃないか!」
『今トゥエルヴランドのことを検索してみたんだけれど、この遊園地には展望タワーがない。もし遊園地中に爆弾を仕掛けて、パニックになっている様子を見渡すんだったらどこが一番見やすいと思う?』
「そんな、まさか!?」
「密室に閉じ込められている。それは逆に言えば、密室に守られているってことにならないかな? 犯人はその12組の中に居るんじゃないかなってね」
ま、まだ証拠も何にもないけれどね。
Dランクのフリーターはそう言った。
彼の推理は遊びのようにお気軽で
彼の言葉は遊びのようにご気楽だった。
観覧車の支柱にくくり付けられている爆弾からは容赦なくチクタクと時を刻む音がしていた。
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