第13話 侵入者 ー 悪名高き極悪ゴブリンギルド⑤



 草原に静寂が訪れる。

在るのは立っているガイと落ちている生首、そして横たわる首なしの体。


 強敵との勝負がついたにも関わらず、ガイは全く晴れた気持ちになっていなかった。

それは首が体から離れ、落ちる時にマシンゴブリンが笑っていたからだ。


 首を刎ねられたとしても、刹那の間、意識はあるはずだ。

しかし、そんな死ぬことが確定した状態で笑う奴がいるだろうか。

何となく気になったガイは落ちているマシンゴブリンの首を確認した。


 もちろん首から斬られた下は無く、目は瞑られている。

当たり前だが、その首からは全く生気を感じない。


 しかしガイはここで思い出す。

このゴブリンがただのゴブリンでは無く、体が機械で出来たマシンゴブリンであることに。


 そう気づいた瞬間、マシンゴブリンの生首の瞑っていた目がカッ!と見開いた。

そしてありえないことに、生首が言葉を放ったのだ。



「詰めが甘いなぁ」



 生首がそう呟いた瞬間、キラリと生首の内部から光が漏れた。

まずい!

危機を感じたガイがその場から逃げようとすると、ガッ!と何かに足を掴まれる。

それはマシンゴブリンの生首から出た舌であり、ガイの足にぐるぐると巻きついていた。


 瞬間、剣で舌を斬って逃げようとするが、もう遅かった。

足を解放され、その場から全速力で逃げ出すガイ。


 まんまとやられた・・・

ガイの思考にそんなことが浮かぶ。

そして首なしのマシンゴブリンの体が逃げていく姿が横目に見える。


 瞬間、第8層全体を消し去るような大爆発が起こった。

ゴゴゴゴッ!という音と共に上がる砂煙、そして全てを飲み込む衝撃、破壊に次ぐ破壊。


 ダンジョン内の壁はひびわれ、天井は崩れ落ちていく。

何があったのかと驚くダンジョンの魔物達。


 そして煙が収まると、第8層の草原は変わり果てた姿になっていた。

爆心地を中心にクレーターのように地面は大きく抉り取られ、

綺麗だった草原の面影も全く感じられない。

影も形もない第8層の片隅に、地面に跪くガイがいた。



「はぁ、はぁ、はぁ・・・」



 何とか難を逃れたが、ガイは大怪我をしている。

肩で呼吸をし、頭や腕からはダラダラと血を流している。

そして特に足はダメージが大きく、立ち上がれない程に負傷している。



「惜しいなぁ、もう少しだったのになぁ」



 音もなく現れ、ガイを見下すように立つ首のないマシンゴブリン。

すると体のどこかから代わりの顔を取り出し、斬られた断面に付けた。



「首を刎ねれば殺せると思ったかぁ?実は首から上も機械で出来てたんだよなぁ」


「そうだな・・・やられたよ。まさか首を刎ねても死なないとは・・・」



 ガイは消耗しきっており、会話するのも一苦労な状況だ。

しかし、これはガイの時間稼ぎであった。


 この隙に少しでも体を回復させ、頭で次の策を考えていた。

首を刎ねても死なない、なら心臓を狙う。



「今、心臓なら殺せると思ったな?」



マシンゴブリンはガイの思考を完全に読んでいた。



「どうだろうなぁ?やってみたらどうだぁ?」



 マシンゴブリンは攻撃してくるように、明らかに挑発している。

だがガイは近づくことはしなかった。

まだ何か隠しているかもしれないからだ。

取り替えたあの首だってまた爆発するかもしれない。


 マシンゴブリンの言う通り、心臓を突いても殺せないかもしれない。

そもそも、コイツは機械で出来ている、心臓なんてない可能性もある。

ガイは思考を巡らせる。


 対してマシンゴブリンはわざと時間を与えるようにその姿を優雅に眺めている。

さっきとは完全に立場が逆転している。

答えの出ない問い、ガイの脳裏に敗北の2文字が浮かぶ。



「残念、時間切れだぁ」



 途端にシュシュシュシュ!と何処かから機械の駆動音のような音が聞こえる。

その音はマシンゴブリンの体内からで、気づくとマシンゴブリンの背中の筒からは大量の黒煙が出ていた。


 何が起こっているんだ、とガイが呆気に取られていると、

視界からマシンゴブリンの姿が消える。



「なっ!」



 ガイが驚きの声を上げた次の瞬間、ガイは吹っ飛ばされていた。

飛ばされ、空中で自分が攻撃を受けたことに気づく。

そして地面に打ち付けられる形で草原をザザザッ!と滑っていく。



「かっ・・・ぐぁ・・・」



ガイから苦悶の声が漏れる。



「体内の動力装置をフル稼働させて、身体能力を向上させたんだぁ」



ボーッ!と黒煙が吹き出す低い音が響く。



「切り札は最後まで残すもんだぜぇ?」



ニヤニヤと勝ち誇った表情で言うマシンゴブリン。



「さあ第2ラウンド開始だぁ」


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