第9話 侵入者 ー 悪名高き極悪ゴブリンギルド
ガイの住むダンジョン最深部は基本的に静かで、冒険者の侵入は足音がよく響くのですぐにわかる。
大抵の冒険者は数人でパーティーを組んでおり、第8層の草原を歩く時はサッサッ!と足元の草を分けて進む音が聞こえる。
しかし、今回の足音は少し様子が違った。
ドタドタと草原を踏み荒らすような品のない足音。
それも数人ではない規模だ。
最深部の居住地で寝ていたガイはすぐに異変に気づき、ベッドから体を起こす。
「・・・数が多いな」
そう呟いたガイは早々に寝巻きから着替え、足音が聞こえる第8層へ走り出した。
「ここが第8層か?」
「おい、何人生き残ってる?」
「早く進もうぜ?」
そんな会話と共にガイの目の前に現れたのは第8層の綺麗な草原を踏みにじるように立つ、武器を持った大量の醜いゴブリン達だった。
ガイはゴブリンの数を数えようとしたが、見渡す限りの緑の塊に数えることを諦めた。
大きい種から小さい種までおり、その全員が剣や弓など何かしらの武器を持っている。
「お、誰かいるぜぇ?」
1匹のゴブリンがガイの存在に気づくと、つられるように全てのゴブリン達がガイをその悪魔的な目で視認する。
「人間かぁ?」
「魔物じゃなさそうだしな?喰っちまうか!」
「いいねぇ!じゃあ俺は左腕を喰う!」
「俺は右足!」
1匹のゴブリンから連鎖的に会話が広がっていく。
静かだった草原に一瞬にして、ゴブリンたちの下品なざわめきが響く。
目を輝かせ、ガイをどう食べようかと盛り上がっている。
「うるせぇな」
そう呟いてゴブリン達を斬り刻もうと思った時、ガイはドシッ、ドシッ!と大きな揺れを感じた。
それは目の前の大量のゴブリン達の後ろからである。
だが地震ではない、何者かが歩く音だとガイはすぐに悟った。
「お前らそんなに騒いでどうしたぁ、何かいるのかぁ」
その声を聞いたゴブリン達が慌てた様子でサッ!と左右に別れ、道を開けていく。
あれほど騒いでいたゴブリン達が、中身が入れ替わったように黙り込んでいる。
「ん?なんだ?」
ガイが呟く。
そしてドシッ、ドシッ!という謎の足音を携えて現れたのは、剣聖であり様々な魑魅魍魎や怪物を目にしたガイでさえ初めて見たモンスターだった。
「なんだこいつ・・・!」
それは大きなゴブリンであった。
3mは優に超える身長、引き締まった筋肉隆々の緑の体。
これだけならばただの屈強なゴブリンなのだが、驚いたのはここからだ。
なんと、体の至る所が機械で出来ているのだ。
背中上部には2本の筒があり、そこからシューと黒い煙が出ている。
さらに右太腿から下、左胸部から左手にかけては鉛色の義肢で出来ており、ガチガチと音を響かせている。
そしてその機械でできた手には自身と同じ程の大きさの斧。
鋼鉄で出来た持ち手が大きく伸びており、先には三日月型の刃が両方に付いている。
「こりゃまた、どエライのが来やがったな」
ガイは呆れ気味に笑って言った。
「お前、人間かぁ?このダンジョンのボスには見えないしなぁ」
ガイは目の前の機械のゴブリンに話す能力があることに驚いた。
こいつは体が機械で構成されているにも関わらず、おそらく知性と理性がある。
他のゴブリン達と同じように会話をし、ボスであるのだろうか大量のゴブリン達を統率している。
「俺達ぁ、神器を探してんだぁ。お前、知らないかぁ」
マシンゴブリンが問う。
「神器?そんなもん知らないな」
「そうかぁ・・・じゃあ仕方ないなぁ」
マシンゴブリンが言い終わった瞬間、ガイは本能的に危険を感じ取った。
何か来る!
ガイのその危機察知は当たっており、感じた瞬間にマシンゴブリンから凄まじい速さで何かが発射された。
ガイはすぐに神器の剣を出現させ、発射されたものをいなそうとする。
しかし何か嫌な予感がし、横にステップして躱した。
発射されたそれはジュー、と焼けるような音を立てながら落ちた場所の草を溶かしている。
ガイがいた場所に発射されたのは、酸であった。
よく見るとマシンゴブリンの左肩部分から発射砲が出ていた。
そしてガシャガシャと音を立ててマシンゴブリンの体内に収納されていく。
「やるなぁお前。やっぱ只者じゃねーなぁ。それにその剣、神器だろぉ?」
マシンゴブリンがニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながらガイを褒める。
瞬間、マシンゴブリンが片手をあげて合図した。
すると先程まで傍観するだけであったゴブリンたちが武器を構え、戦闘体勢に入った。
「ここまでの道中でだいぶ減っちまったなぁ。残りは100匹ぐらいかぁ」
100匹のゴブリン。
そのゴブリン達から、ガイを殺そうとする殺気が放たれる。
しかしガイは100という数字に全く動じていなかった。
どれだけ数が集まろうとも、剣聖の前では全て同じ肉塊であるからだ。
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