第5話 侵入者 ー 駆け出しS級冒険者パーティー⑤



「はぁ、はぁ、はぁ・・・」



 息を切らし、疲れ切った体で剣を握っているのは先程、男に蹴飛ばされた魔法剣士。

魔法剣士は倒れている自分の仲間2人を目にする。

ほんの数分でこの男に2人はやられたのだろうかと考える。



「もう終わりか?この程度か、お前らは」



男が放った言葉に激怒した魔法戦士が斬りかかる。



「あぁぁぁ!」



 技術も読み合いもない、感情に操られた一撃だったが、男は正面からそれを受け止めた。

鍔迫り合う両者の剣。



「俺たちがっ・・・・どれだけの覚悟を持ってここまで来たと思ってるっ!」


「知るか。俺のエリアに入ってきたやつは斬るだけだ」



冷徹な男の一言。



「お前、魔法剣士なんだろ?じゃあ魔法でも剣でも使って俺を倒してみろよ」



 男の挑発的なその言葉が、魔法剣士に火をつけた。

途端に魔法剣士の力が強まり、鍔迫り合いで押される男。

魔法剣士は身体強化の魔法を使ったのだ。

魔法剣士の力はみるみる上がっていき、男を後ろへ押し込んでいく。



「お前を斬るっ!」



 この勢いのまま魔法剣士が押し切ると思われた。

しかし、魔法剣士は対峙する目の前の男を見誤っていた。



この男は剣聖であった。



 男は鍔迫り合いの最中に脱力した。

その予想外の行動に困惑する魔法剣士。


 なぜなら鍔迫り合いを止めたことで、男に向かって自分の刃が向かっていくからだ。

あと数秒もすれば魔法剣士の剣によって男は斬られる。


 しかし、脱力により生まれた、剣が交わらない時間。

互いの剣が空中で浮遊する。

剣聖はこれを狙っていた。


 数秒どころか1秒も満たない間、

男はその刹那に、迫る剣よりも速く魔法剣士を斬ったのだ。



「残念、終わり」



 簡潔に呟いた男。

魔法剣士は音もなく斬られる。

そして倒れる中、理解する。

男の異次元なスピード、そうか、自分は最初からこの男に遊ばれていたのだ。



ー もう終わりか?この程度か、お前らは ー



 最初そう煽られた時、俺は感情に任せて男に斬りかかった。

あの高速の剣捌きを考えれば、その時にはもう斬られていたはずだ。


 しかし男は何故か鍔迫り合いに応じた。

そして俺は身体強化の魔法で勝った気になった。


 遊ばれているとも気づかずに。

俺は・・・俺は・・・

折られたプライドと共に魔法剣士は倒れた。


 一連の戦闘を終え、静まり返る草原。

男からすれば戦闘とは言えなかったかもしれないが。

目の前には倒れている冒険者3人。



「もう来んじゃねーぞ」



 男が3人に魔法をかける。

それは脱出魔法であった。

光が3人を包み、ダンジョンの外へ送還される。



「貴様・・・何者だ・・・」



 光の中から声が聞こえた。

主は魔法剣士であった。




「お前、その怪我でまだ意識あるのか。根性あるな」


「何者・・・何者・・・」



 魔法剣士は壊れたように繰り返す。

そして送還される瞬間、



「俺の名前はガイ、そしてこのダンジョンは俺の家だ。神器が欲しかったら、誰にも負けないぐらい強くなってまたここに来い。そしたら勝負してやる」



 その言葉を、そしてガイと名乗る男の顔を脳に焼き付け、

魔法剣士率いる冒険者3人はダンジョン外に送還された。



「あー疲れた!勝手に人の家に入るんじゃねーよ!」



男は平和が訪れた草原に一人残され、怒鳴って去っていった。


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