第4話 侵入者 ー 駆け出しS級冒険者パーティー④



 草原を包む爆風と砂煙。

それを背に歩く男。

まるでこれが日常茶飯事であるかのような振る舞い。



「最近マジで侵入者多いんだよな」



 愚痴をこぼしながら帰ろうとする男。

瞬間、男は後ろに立ち上る煙の中から何かを感じた。


 そして瞬時に振り返る。

すると男に向かって赤く燃え盛る火の玉が勢いよく飛んで来ていた。

男はそんな状況でも全く動じず、立ったまま首を傾げるような動きで避ける。



「・・・お?」



火の玉が顔の真横を通っていき、男の毛先が少し焦げる。



「よくもやってくれたな・・・」



 砂煙の中から出てきたのは先程の冒険者3人。

3人の前には赤い魔法陣の描かれた透明の壁があった。

どうやら爆発の瞬間、咄嗟に魔法使いが障壁魔法を使ったようだ。



「へー、お前らやるな。流石は第8層までこれる冒険者だ」



 冒険者3人は完全に戦闘体勢で魔法剣士、重戦士は共に剣を構え、

魔法使いはいつでも魔法を使えるように魔法陣を自らの下に用意している。



「じゃあ俺もやるかー」



 そう言った男は突然手を前に向けた。

すると何もなかったはずの空間から剣が現れる。



「まさかその剣、このダンジョンの神器か!?」



 男は魔法戦士の言葉を聞かずに冒険者3人に向かって走り出した。

そのスピードは凄まじく、瞬きの一瞬の間に冒険者3人の目の前に来ていた。

ここで3人は気づく、この男が只者ではないことに。


 高速で斬りかかる男に対し、

唯一、本能的なもので反応できた魔法剣士が前に出て剣を受け止める。

ガキンッ!と剣と剣が鍔迫り合う音が草原に響く。



「お前、何者っ・・・」



 男は言葉を待たず、鍔迫り合いのまま魔法剣士を前蹴りで吹っ飛ばした。

遥か後方へ飛んでいく魔法剣士。



「おぁぁぁ!」



 飛んでいく魔法剣士を残った重戦士と魔法使いが唖然と見つめている。

2人には理解できなかった。

この汚い男がこれほどまでの実力者だということを。



「おーい、ぼーっとすんな」



 男の言葉に重戦士は我に返り、大剣を男に向かって振り下ろす。

しかし男は大剣を避けようとも受け止めようともせず、

剣先を地面に這わすようにして重戦士に斬りかかった。


 普通なら先に動いた重戦士に分があるはずだが、それは違った。

後に動いたはずの男の速度は重戦士を遥かに上回っており、

重戦士がそれに気づいた時、既に刃は目の前に来ていた。


 ありえない!こいつは後から動いたはずなのに・・・

重戦士は心の中でそう思ったが、もうどうすることもできなかった。

そして抵抗虚しく男に斬られ、地面に倒れ込んだ。


 その姿を冷たい目で見る男。

しかし、既に次の攻撃が迫っていた。



「大槍魔炎撃!」



 どこかから聞こえた声と共に、

男に巨大な炎の槍が高速で向かって来る。


 しかし男は完全に見切っているのか、

軽く横にステップしただけで巨大な炎の槍を躱してしまった。



「よくも・・・私の仲間をっ!」



 大切な仲間を倒され、凄まじい険相で男を睨む魔法使い。

だが男はそんなことは気にせず、剣を構え直し、冷酷に魔法使いに迫っていく。



「炎獣・連獅子!」



 魔法使いがそう唱えると同時に炎で構成された2体の獅子が現れ、男に向かって行った。



「ガァッ!」



 一直線に走る、勇ましく吠える2体の炎獅子。

炎獅子が走った草原の後は黒く焦げている。


 2体の炎獅子が牙を剥き、男に同時に飛びかかる。

やった!魔法使いはそう思ったが、瞬間、男は2体の獅子を水平にぶった斬った。

顔から胴体にかけて綺麗に真っ二つになった炎獅子は形を保てず、消えていく。



「なっ・・・炎獅子を斬った!?」



 魔法使いが驚いているのも束の間、

男は距離を詰めていく。



「氷凍矢!」



 魔法使いは次の手として氷の矢を男に向かって幾本も放ったが、

そんなもの、男には脅威ではなかった。


 上下左右に動き回り、体を捻らせ、剣で斬り、

無限に放たれる氷の矢を華麗に捌いていく。


 そして魔法使いが少し攻撃の手を休めた瞬間、男は一気に加速した。

それに気づいた魔法使いが慌てて障壁魔法を唱えようとするが、遅かった。


 地面を蹴った勢いで空中に飛び上がって回転し、

そのまま勢いをつけた回転斬りで目の前の敵である魔法使いを斬ろうとする姿はまさに剣の達人。


 魔法使いは斬られる寸前にそう思った。

剣の達人、剣豪・・・いや、この世界でこんな芸当ができるのはただ一人。

剣聖の称号を与えられた者のみ。


 剣聖、それは剣を扱うものの頂点に立つ者にのみ与えられる称号。

剣の技術はもちろん、心技体も極限まで極めし者。

でもこの男が剣聖ならなんでこんなダンジョンの奥深くに・・・


 そんな想像をしながら魔法使いは倒れていった。

まるで子供と大人。

実力差など誰が見ても明らかだった。

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