第7話 忘れ去られる文献③
弟が入っているカプセルが開いた。
弟は体に力が入らず崩れ落ちるようにしてカプセルから出た。
しばらくして体に力が戻り始めたとき一人の女科学者が来た。
「こんにちは。個体名 アリア」
弟はそんな名前じゃない。と言った。
「じゃあ、どんな名前なんだい?」
弟は自分の名前を言おうとしたが忘れていた。もっと正確に言えば母親の顔や名前姉の名前などの記憶がごっそりなくなっていた。
「ほら、言えない」
女科学者は笑っている。
「そういえば自己紹介してなかったね」
一歩下がり
「吾輩はメルト。天才研究者だ」
ドヤ顔で名乗った。
弟は姉は何処にいるのか。と聞いた。メルトは
「安全な場所にいるさ」
と笑って答えた。そして、
「君がこちらの要求を呑んでくれれば解放しよう」
と付け足した。
その要求とは戦争の終息。弟は自爆兵としてお腹に爆弾を巻き敵陣の真ん中で爆発する事を命令された。弟は『超回復』のおかげで無傷で自陣に帰りまた突撃した。そんな事を10年ほど続けた。
「これが吾輩のおじいさんの話だ」
ここで吾輩ことアリアンテは話を打ち切った。
「おじいさんは大変な目にあっていたんですね」
と水色髪の少女カノンが言う。こんな不自然な話をすっと信じる子でよかった。
「今日は面白い話をありがとうございました。あなたにストーキングして良かったです」
とそそくさと部屋を出ていった。というか普通に喋ってたな。
「あの子初めて聞く歴史話に興奮したんだろうね」
生徒会長メイ先輩が言う。
「いやー、僕もそんな話を聞けて良かったよ。アリアンテ君が体験したみたいに語ってくれるからね。実に面白かった」
わざとらしくそんな言い回しをするメイ先輩。そして最後に、
「そう言えば、そろそろ武闘大会の時期だね。君たち1年生は頑張りなよ」
と吾輩の背中を押し部屋から出した。そして、バイバーイと言い笑顔で扉を閉めた。追い出された吾輩はトボトボと寮へと向かった。
さて、1人になったところでさっきの場では言えなかった話の続きをしよう。
10年自爆兵として戦い続けた弟(吾輩)はいつも通り敵の基地を壊滅させた。
しかし、研究所に戻った時に弟は異変に気がついた。血の匂いがする。そして、見つけた。血まみれで倒れているメルトの姿を。メルトの方に駆け寄ると微かに息があった。そして、こう言った。
「ごめんな、アリア。吾輩たち研究者は嘘ばっかついてた」
そこで、伝えられた。姉はもう死んでいると。弟の加護『超回復』と姉の加護『不老不死』を合わせた存在がアリアだと。
吾輩はなんとなく気がついていた。『超回復』のデメリットは老化速度が早いこと。しかし、ここ10年全く体に衰えがなかった。
「最後に、、、」
と意外と元気そうなメルトが言った。
「吾輩の名を受け継いでくれないか?」
特に意味はないらしい。ただ、メルトの名で世界を変えて欲しいそうだ。
吾輩は仕方なく名前を貰い。この頃に吾輩の名はメルトとなった。
つまり、吾輩の本名はアリアンテではなくメルトということだ。ん?じゃあ何故アリアンテと名乗っているかだって?十分世界を変えたからだ。戦争を終わらし今の魔族たちが来るまでの平和を作った。
ちなみにアリアンテは研究所にいた個体名からとっている。
話を戻そう。メルトは世界を変えろと言った後に力尽きた。吾輩は何も感じなかった。母親が死んだ時も姉が死んでいるとわかった時も。
吾輩は研究所の奥へ進んだ。奥の部屋には書類が沢山ありその1枚を見た。
[加護の結合方法]と書かれている紙。そこには、吾輩と姉の脳を1つにすると書かれていた。これを見ても何も感じない。
吾輩は火を持った。そして、書類に火を放つ。火が燃え盛る真ん中で吾輩は座った。皮膚が溶けてきたが何も感じない。それよりも、天才研究者メルトの作った加護について文献はこうして全て無くなったことに少し笑いが出てきたくらいだった。情緒が不安定なことぐらいわかっている。だけど、あの時の吾輩にはそれぐらいしか感じれなかったのだ。
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