第6話✦それぞれの未来1(ザッフィーロ公爵家)

(ザッフィーロ公爵家にて)



 空の色を思わせる髪と瞳を持った二人の人物がローテーブルを挟んで向かい合い、何かを話し合っていた。その二人はよく似ていた。年齢から親子だろうと伺え知れる。


 ふと、40歳ぐらいの男性が何もない空間に視線を漂わせる。そして、驚いたように目を見開いた。しかし、男性の視線の先には何もない天井があるのみだ。


「父上。どうされました?」


「まさか」


 そう言って、男性は立ち上がり、部屋を飛び出した。後ろからは男性と似た青年が不可解な顔をしながらついて来ていた。


 男性はとある部屋の前にたどり着き、ノックもなしに扉を開け放つ。その部屋の中を見て唖然と部屋の中を見渡す男性。後ろからついてきた青年も予想外の部屋の状態に中に入って、呼びかける。


「ヴィネ!ヴィネどこだ!」


 呼びかけても返事は返って来ない。それはそうだろう。この部屋の中には何もないのだ。そう、何も。

 文机も長椅子もテーブルも持ち運びが不可能だと思われるベッドでさえもなく、部屋の中はがらんどうとして、何もないのだ。人が隠れるようなスペースなどありはしない。


「父上!ヴィネが!」


 青年が父と呼んだ男性に詰め寄る。しかし、男性は呆然と部屋を眺めているだけだった。青年は父親が何も反応しないことに苛立ちを覚え、部屋を出ていこうとした。


「私はヴィネを探して来ます」


「やめておきなさい」


 しかし、男性は青年の行動を止める。男性の言葉に青年は自分の行動を止めた父親を睨みつける。


「ヴィネーラが本気で逃げたのなら捕まえようがない。ヴィネーラが施していた結界が消えた。今までは何もしなくてよかったが、レーヴェ。お前も我が公爵家の仕事をしなければならなくなった。そして、私もな」


「しかし、父上。ヴィネを捨てるのですか!」


「違うな。捨てられたのは我々の方だ。レーヴェ、これを」


 男は懐から青い宝石のペンダントを青年に差し出す。ザッフィーロ公爵領で採取できるサファイアでできたペンダントトップだが、その大きさはコイン程の大きさがあった。それも青い宝石の中がキラキラと輝いていたのだった。


「何ですこれは?」


「悪意を弾く物だそうだ」


「は?」


 青年は意味がわからないという顔をする。しかし、男性はそれだけを言って部屋から出ていこうとするが、青年がそれを引き止める。


「父上きちんと説明をしてください。それにヴィネを探さないと」


 その言葉に男性はため息を吐く。


「レーヴェ。ヴィネーラとの契約だ。学院の卒業までは自由にする。逆に言えば卒業しなければ自由のままだということだ。元々貴族としては問題行動が見られたヴィネーラだ。貴族として生きることはあの子にとって窮屈だったのだろう。それからレーヴェ。お前はヴィネーラに構っていられなくなるほど忙しくなる。私はこれから王城に行く。お前は「私も行きます」」


 青年は父親の言葉を遮って言った。


「私も行きます。今日はヴィネの事で抜けて来てしまいましたから。それに今の職を辞する必要があるのなら私は···」


「いや、そこまでは必要ない。それに近衛副隊長の地位は使い勝手がいいだろう」


 見た目がよく似た男性と青年は揃って部屋を出ていく。先程言っていた王城へ赴くのだろう。


 扉を閉める瞬間、部屋の中に視線を向けた男性の口元が動く。声には出さずに言葉にした。


『ヴィネーラ、すまなかった。ありがとう』


 と。


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