最終話(にして横路) 包んでもよく眠られるのです




 私が小学生か中学生だった頃、親戚縁者との飲み会の席で、お袋が「結婚しょや初夜の時は、だんな旦那さんの左側の布団に寝なさい、って姉に言われたの」と言っていた。当時の私は、その言葉だけ覚えていて、その理由は考えても分からなかった。


 無論、大人になってからその理由は分かったが、処女を捧げた相手が父(そして、男は父しか知らない)、という昭和初期の女性であることに、ほほえましいと思いながらも、(私の場合は、右側に寝てほしいんだけどな)と声にならない声でつぶやく。

 それは、単に、私は右利きでありながら左指遣いである、こと以外に、それがしとねじゃなくても1対1になったときは左側が妙に落ち着くから、である。


 早速、左側に居たい理由を手軽にネット検索すると、「その人を大事にしたい気持ちがあるから」ってのが出てきて、(よ~し、いいぞ~)って思って読み進めていくと、「自分に自信が持てない状態」、「相手に守ってもらいたい状態」、「相手を警戒している状態」、「女性に甘えたい気持ちがあるから」と、なんだかがっかりするような理由ばかり。

 まあ、そうじゃない!と強く反論する材料もないわけで、おそらく、その通りなんだろう。


 もちろん、ベッドや布団を共にする時も、左側が落ち着く(本当であれば、過去形表記が妥当)。また、利き腕の右腕を女性の後ろ頭に潜り込ませて腕枕も提供できる。


 でも、一番落ち着くのは、女性に背中を向けてもらって、私が後ろから包み込む体勢になったときだ。



 布団に包み込まれても、女性を包み込んでもよく眠れる、のが私だ。



(本当であれば、過去形表記が妥当)





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眠りの作法 橙 suzukake @daidai1112

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