005-5 『―――』
「その話を聞いて、ようやく分かりましたよ……あいつか」
「お前、奥さんは大事にしないと駄目だぜ?」
「何でオーナーが俺の奥さんの為に動くんですか? というかお二人、仲良かったでしたっけ?」
それを聞き、夏堀もまた状況を把握するに至った。
「つまり……私が抽冬の浮気相手になることを懸念して、そこのオーナーさんに相談したと?」
「仕事も一段落したところだしな。ここ最近顔も出せてなかったし、ついでだついで」
「オーナーの方は分かりました。ところで……」
抽冬の視線は、『偽造屋』から田村の方に向けられる。丁度彼女はライターの頭を持ち、逆手で銃の撃鉄を起こすようにして倒して火を点ける、ピストルグリップで着火させていた。
「……ん、どしたのおじさん?」
「田村もグル?」
「さあ? ただ、今日お店に遊びに行くことは、弥咲さんには伝えていたけど?」
しれっと、咥えた煙草の先端に火を点けた田村は、一度口から離してから、そう答えてきた。
「……それで、わざわざ田村の職場にハッキングでもしたんですか?」
「正確には
『偽造屋』の仕事上、情報技術もまた必要となってくる。情報社会と化した現代であればなおさらだ。特に公的証明書の偽造等を行うには、必須の技能と言っても差し支えないだろう。
「服まで拘る必要、あったんですか?」
「タイミング図るついでだ、丁度同じの持ってたしな……で」
そこで『偽造屋』はようやく、視線を件の夏堀へと向けていく。
「……それで、お姉さんはこのおっさんのこと、どう思う?」
「再会した時は予想より老けてて、無条件でがっくりきた」
……非常に正直な感想が、返されてきた。
「せめて童顔だったら……正直秋濱の方が、まだましね」
ガタッ、と音を立てて、秋濱が立ち上がっていた。慌てて財布を取り出そうとするのを見て、
「もう襲わないわよ。二十年位若返ってから出直して来なさい」
夏堀はそう呼び留める。
秋濱はどこか納得のいかない表情を浮かべながらも……他に行く当てがないのか、そのまま座り直していた。
「それにしても……全部あいつの掌の上かよ」
「何、あんたの奥さんヤンデレなの?」
「その割には、女遊びしててもあまり怒んないんだけどな……後でその分絞り取られるけど」
女心はよく分からないと考えながら、抽冬は収穫したばかりのラディッシュを厨房の上に並べだした。
「ラディッシュのカナッペ、作ったら注文する人は?」
カウンターに並ぶ四人、その全員が手を上げていた。
「ところで……夏堀は平気なの? 下肥で育てた野菜でも」
「常連連中が平気で食べているってことは、食中毒とかは大丈夫なんでしょう?」
「まあ、一応……」
少なくとも、排泄物にまで影響する程酷い食生活を送っていた場合は、売るなり捨てるなりしているのはたしかだった。
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