005-2 『―――』

 降りてきたのは、ピアスの目立つ風貌をした女性だった。

「おじさ~ん、遊びに来たよ~」

「……おじさん?」

 新しい来客を一瞥した夏堀は、そのまま視線を抽冬の方へと向けた。

「そう呼ばれてるだけだよ……」

「……ああ、あだ名みたいなもんか」

 それだけ理解した夏堀は、立ち上がって挨拶し出した。

「初めまして。常連希望の美人キャリアウーマンこと、夏堀恵です。よろしく~」

「ノリいいね~お姉さん……田村・・四季・・です、よろしく~」

 夏堀は彼女をカウンターの中央席に導き、その隣に座り込んでくる。

「ところで……何の話してたの?」

「抽冬の雇い主について」

 夏堀はついさっきまで、抽冬達と話していたことを説明していく。

「……で、私は直接会ったことないんだけど、事前に聞いた特徴を話したら、抽冬が『大体それで合ってる』って言ってたのよ」

「へぇ~……それで、その特徴が…………」

 空いた手を持ち上げ、指折り数えながら、夏堀が挙げた特徴を復唱していく。

「『腕はたしか』で、『昔馴染みの詐欺師よりも嘘吐き』と、『自信過剰ナルシスト』に……『絶対に敵に回したくない人間の一人』、か~……『自信過剰ナルシスト』は外していいんじゃない? が良いのは事実なんだし」

「えっと……」

 その問い掛けに、抽冬はどう答えた方がいいのかが分からずに、視線を彷徨わせていく。

「それに、そんな陰口叩いてると……給料減らされるか、人糞利用が世間にばれるんじゃない?」

「……取り消します。申し訳ございませんでした」

「人糞?」

 その言葉に、夏堀が反応した。彼女はまだ知らなかったことを思い出してか、秋濱が離れた席から伝えてきた。

「こいつ、女の糞尿使って肥料作ってるんだよ。それで家庭菜園やってるんだとさ」

「うげ……」

 夏堀の口から呻き声が漏れ出てきた。

「抽冬、あんた……スカトロ趣味があったわけ?」

「誤解だ、と言いたいところだけど……商売の方はもう畳もうかと検討しているだけに、否定できない」

 まさかのタイミングでの、規模縮小だ。まだ畳むかは決めかねてはいるものの、もう商売にしないのであれば、『趣味』だと疑われても仕方がない。

「とにかく、俺は変態じゃない。若気の至りと資金源に目が眩んで、アホなことに手を染めただけなんです……」

 そのままじっと、頭を下げる抽冬。その二人を放置し、今度は秋濱の方にお鉢が回ってくる。

「……で、そっちのお兄さんはオーナーのこと、どう思ってるの?」

「どうもこうも……」

 秋濱は投げられた疑問を脳内で吟味しながら、ほぼ灰と化した煙草を灰皿に押し付けた。

 その後考えを纏め終えてから、ゆっくりと話し始めた。

「『俺の雇い主の昔馴染み』で『面倒見は良い方だけど、敵は容赦なく潰す手合い』、『無塩トマトジュースが好き』で、後は……」

 するとまた、扉の開閉音が店内に響いてくる。


「おじさ~ん、遊びに来たよ~……ってあれ?」


「……『油断のならない人物』としか、言えない」

 人目の来店者である田村・・に視線を向けながら、秋濱はそう零した。

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