004-6 田村 四季
下水処理がままならない時代、人糞は立派な肥料足りえた。実際、下手な動物よりも雑食だった為か、栄養価がかなり高かったらしい。
しかし、現在では上下水道の完備や寄生虫等の問題により、廃れてしまった方法である。
……ただ、法的に制限されているだけで、下肥そのものは禁じられていない。いくつもの手順を踏みさえすれば、余程の密集地域でなければ合法なのだ。
そして抽冬は、ある意味では法律ギリギリの線で下肥を調達していた。
ここから少し離れた廃ビルの一室に特注の和式便座を用意し、顔バレしない状態で排泄場面、そして排泄物を一セットにまとめている。田村が昔していたバイトも、その準備と後始末だった。自動で纏められる糞尿を堆肥化する為の発酵所に回し、便器を掃除するのが主な仕事だが……見知らぬ親父に身体を売るよりはましだからと、臭いを堪えて働いていた。
今でこそ排泄物の回収から堆肥化まで完全に自動化し、清掃員を雇って定期的に清掃させてはいるものの……まだ家出少女に金銭を支払い続けている。なので、肥料は常に用意され、同じ廃ビル内の地下に(業務用脱臭装置と共に)保管されていた。
抽冬が、使い切れない程に。
「昔はネットで売ってたじゃん。もう流さないの?」
「野菜や肥料より、真空保存した糞尿の方が売れ出したから止めた。下手したら警察とかに目を付けられそうだし……」
おまけにここ最近では
何より…………色々な意味で臭いから、すぐに足がつく。
「じゃあ代わりに、家出少女にただでお金渡す? 今でも助けてたりするんじゃないの?」
「被害者側なら、ね……さすがに
家出しているからと言って、その家庭全てに問題があるわけではない。ほんの些細なすれ違い一つで、人間は簡単に仲違いしてしまう。
抽冬がバイトを斡旋する対象は必然的に、警察に頼れない事情を持つ相手だけだった。
「それも今回で、最後にした方がいいかもね……」
「というか……何で全部、律儀に使ってるの?」
「…………あ」
田村に言われて、抽冬はようやく気付いた。代金を支払っているとはいえ、すでに所有権は抽冬にあるのだ。
ならばその糞尿や肥料を使うのも……使わずにそのまま捨てるのも、持ち主の自由である。
「まずは、在庫片付けてからにしたら?」
「そうするかな……」
取り終えたパセリ片手に立ち上がりながら、抽冬は貯蔵してある肥料の在庫量を思い出そうと、後頭部を掻いた。
「まあ、あたしが言えることはただ一つ……」
部屋を出ようとする抽冬が眼前を通るのに合わせて、田村にジト目を向けられた。
「食事前に、そんな話しないでくれない……」
「……すみません」
そして部屋の扉は開け放たれていたので、二人の話は桧山にも届いていた。
「せっかくのハッシュドビーフなのに……」
鍋の中身はさながら…………これ以上は慎みます。
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