004-5 田村 四季

 基本的に、抽冬は聞かれない限り、桧山に料理をリクエストしたりはしない。

 特に食べたいものがない時等は、作る人間が好きな料理を選ぶべきだと、そう考えているからだ。

 だから桧山が好きな料理ものを食べたい時は、抽冬もまたそれに従うことにしている。

「今日はハッシュドビーフか……」

 桧山が買い込み、朝方に仕込みを終えていた材料と市販のルーを見て、抽冬はそう判断した。

 帰宅した時点で準備を終えていたということは、もしかしたら抽冬の食として用意していたのかもしれない。

 しかし……抽冬が八つ当たりをしたばかりに、桧山の手で料理が作られることもなく、未完成で放置されていたのだろう。

 なので抽冬は、これらの料理を完成させることにした。食べたい、食べたくないではなく……すぐに作れるものだと判断して。

「……あれ、四季ちゃん来てたの?」

「弥咲さんお疲れ~す」

 シャワーを浴び、適当な着替えを終えた桧山が出てくる頃には、丁度炊飯器の米が炊き上がっていた。

 スマホ動画片手に新しいトリックプレイを覚えようとライターを弄んでいた田村から視線を外した桧山は、髪を拭いていたタオルを肩に掛けながら、キッチンで鍋を掻き回している抽冬の傍に立った。

「後は?」

「バターライス。パセリはまだ取ってきてない」

「じゃあパセリをお願いできる? 後はやっておくから」

「分かった」

 手に持っていた玉杓子レードルを桧山に手渡した抽冬は、キッチンを出てリビングを横切り、屋内の家庭菜園へと向かっていく。

「……あ、そうだ。田村、ちょっといい?」

「ん?」

 弄んでいたライターの蓋を閉じた田村を連れ、抽冬は家庭菜園用の部屋へと入って行く。

 中に入った抽冬はパセリを摘みながら、顎で肥料・・の入った袋を指した。

肥料・・の調達、辞めようかと思ってさ……どう思う?」

「肥料って……あのバイトのこと?」

 背中越しでも抽冬が頷いたことは分かったらしい。

「ん~…………」

 田村は悩まし気に、肥料を眺めた。

「今でも調達してるって……女の子来てるの?」

「『類は友を呼ぶ』ってことかな……下手な援助交際えんこうよりも手軽で安全だからって、全然途絶えないんだよね」

 そればかりは、抽冬は当時の自分に対して呆れることしかできなかった。

「正直……そっちの方が売れるとは思わなかったからな~」

「世の中変態が多いんだから……ま、未成年子供使わないだけ、おじさんはまともな方じゃない?」

 抽冬が家庭菜園で用いている肥料は、成人している家出少女達から得た特別製だ。


 平たく言えば、その肥料の正体は下肥しもごえ…………人の糞尿を原料にしたものだった。

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