004-3 田村 四季

 ……元々、田村はピアスの目立つ人間とは真逆の生き方をしていた。


 元は地味な少女だったが、未成年の内に家出し、夜の街へと繰り出してきたのだ。

 行く当てもなく彷徨っている内に、桧山の時と同様にビルの近くで呆然と立ち尽くしている中……抽冬に拾われたのだ。

『さすがに未成年はまずいかな……』

 法律か倫理か矜持か、それとも単なる好みか。抽冬は田村に手を出すことはなかった。

 その代わりに当時、抽冬が試そうとしていた肥料・・の調達を手伝うことになり、通常よりも破格なバイト代を田村に手渡してくれていた。雇用契約も労働基準法もめちゃくちゃだったが、労働の対価は田村にきちんと支払われていた。だから仕事内容・・・・以外・・の文句は一切なく、真面目に働いた。

 そのバイト代を貯めて生活資金にし、田村は一人で生きていくことを決意したのだ。

 最初の内は桧山同様、抽冬の家に転がり込んではいたものの……金が貯まった途端に偽の身分証と新しい引越し先を持って二度目の家出を敢行し、現在は免税ショップの社員として働きながら、一人暮らしをしている。

 一度目との違いは、未だに抽冬の元を訪れ、頻繁に交流を持っていることだろう。

 それもあってか、抽冬は田村が遊びに来ることを黙認するだけでなく、仕事の為に買いに行けない煙草(コンビニ等では取り扱っていない)の調達を頼むようになった。

 それでも、何かあれば絶対に近付くなとはいつも言われているものの、田村が抽冬を訪ねる回数が減ることはない。

 ただ……田村が抽冬に対して抱く想いは、桧山とは根本的に異なっているが。




「あいつ……俺が『結構モテてる』とか言ってたんだけど、どう思う?」

「ふ~ん、まぁ……モテる、って言っても大なり小なりじゃない?」

 灰皿に灰を落としながら、田村は抽冬に向けて、煙草を持った手を突き出してくる。

「あたしもおじさん好きだけどさぁ……別に『結婚したい』とかは思わないかな~」

「さらっと言うな、お前……」

「そりゃおじさんのこと、特に異性として見てないしね~」

 歳は離れているものの、付き合いの長さからか、二人の会話には『遠慮』が交じる様子はなかった。

「だって……あたしにとっておじさんって、完全に『偶像アイドル』か『動物ペット』枠だもん。人間だから嫉妬することはあっても、『それがどうした?』って気持ちもなくはないしね~」

「そんなものかね……」

 田村の言いたいことも、抽冬は何となくではあるものの、理解はできる。

 要するに、相手を気に入るかどうかであり、また相手が自分を見ているかどうかなのだ。

 気に入った相手が自分に構ってくれるのであればいいが、そうでなければ苛立ってしまう。そしてその全てが、『結婚したい』という度合いにまで届くとは限らない。

 田村が言いたいのはそういうことだろうと、抽冬は吸い終わった煙草を灰皿に押し付けながら、そう考えていた。

「じゃあシャワー浴びてくる。田村はどうする?」

「あたしはもうちょっと吸ってる。後は勝手にしてるから、ごゆっくり~」

 目を閉じて、ひらひらと空いた手を振ってくる田村に背を向け、抽冬はベランダを後にした。

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