004-2 田村 四季

「ちょっと待ってろ! すぐ開ける……」

 そう叫び、抽冬はベッドの上から起き上がった。

 最低限に身体を拭き、脱ぎ捨てた服を改めて着直した抽冬は、そこでようやく玄関の方へと向かう。

 鍵を開け、扉を開けると目の前に、抽冬とは旧知の女性が立っていた。

 成人して数年も経っていない身体に、ピアスの目立つ風貌をした女性、田村たむら四季しきが手に持っていたビニール袋片手に挨拶してくる。

「ああ、いたいた。お疲れ~す」

「本当暇だな、田村……」

「まあいいじゃん。お邪魔~す」

 呆れる抽冬を押し退けて、田村は部屋に上がっていく。

 その間、田村の鼻が少し動き、思わず抽冬の方を一瞥してくる。

「何か臭いよ……もしかして、さっきまでお盛んだった?」

「いや……お盛んな後に寝落ちしてた」

「それはシャワー案件。さっさと入ってきなよ」

 そう言い終えた田村はふと、手に持っていたビニール袋のことを思い出して、抽冬に差し出してきた。

「それとも先に……一服する?」

 ビニール袋の中には、抽冬の嗜好品であるフレーバー系の外国産煙草が、大量に詰められていた。




 抽冬が煙草を吸い始めた理由は、大したものではなかった。

 単にバーテンとして生きると決めた際、『いまさら長生きしてもな……』と嗜好品を買い漁る内に、ふと本の世界の住人登場人物が煙草を吸っている姿に憧れて、試してみただけだ。

 最初こそ適当な銘柄だったので口に合わず、一、二本吸ってから残りを捨ててしまっていたものの……本の世界の住人登場人物達が吸っている銘柄を探して色々と試している内に、フレーバー系の外国産煙草を気に入るようになった。

 時折禁煙を挟みつつ、バーテンとしての生活に合わせていく内に、抽冬は煙草との向き合い方を確立させていった。

 その内の一つが……火の点け方だった。

 ――キン、シュボッ! ……カンッ!

「……まだ使ってるの? それ」

「今も長生きしてる~」

「安物なんだけどな……案外しぶとい」

 ベランダに出た二人は、それぞれ煙草に火を点け、煙を燻らせていた。

 広げたキャンピングチェアに腰掛けて、マッチを擦る抽冬とは違い、田村はベランダの手すりにもたれかかりながら、薬指を伸ばして蓋を開け、降ろした勢いで着火させる、マリード・マンと呼ばれるトリックプレイで火を灯している。

 今田村が使っているオイルライターも、以前抽冬が試していた着火手段の一つだった。

 煙草を買った際のおまけで付いてきたターボライターや百均の使い捨ても試していたものの、結局はフレーバー系を吸うことが多くなったので燃焼温度が低く、オイル等の匂いも付きにくいマッチに落ち着いたのだ。

 だから要らなくなったオイルライターを放置していたのだが……田村が二十歳になった時、何故か欲しがってきたので渡したのだ。

「何がいいのやら……」

 その時の田村の心中を、抽冬が推し量ることは今でも難しかったが。

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