002-3 桧山 弥咲

 間取りはよくある3DK。居住前に改築リフォームした際、壁に偽造した通り抜けできるウォークスルー収納クローゼットを追加し、屋内の動線を複数用意してある。三つある部屋の内二つは玄関横にあり、リビングと繋がっている通路の先が、抽冬の部屋だった。反対側を桧山が使っている。

 そして、ベランダ側に位置する部屋を、抽冬は趣味の家庭菜園に用いていた。

「しかし……増やし過ぎたな」

 部屋を埋め尽くしているプランターには、野菜や果物の苗が埋まっている。その周囲を、ベランダから差し込む陽光やフルスペクトルLEDの照明が取り囲んでいた。

「調子に乗って、棚とか作り過ぎたなぁ……」

 元々、抽冬は花を育てるのが好きじゃない。どうせ育てるのであれば、華やかさ風流よりも食べられる物実利を優先させたいという考えがあるからだ。

 とはいえ、部屋一面を菜園化するのはさすがにやり過ぎだったと、今では思っている。なので抽冬は、収穫した余りを店の方に回し、バーのつまみとして活用していた。

 ……その余り・・も、すでに半数を上回っているのだが。

「かといって……いまさら減らすのもなぁ」

 抽冬が『バーテン』になってから、最初に困ったのは……収入の多さだった。

 確定申告用の、諸々の書類は全て偽造・・しているので、税金として回収されることのない蓄え(注:完全に脱税です)が、抽冬の部屋に大量に貯まっている。

 最初の内こそ女を買い、酒や煙草等嗜好品を買い、金に糸目を付けずに趣味の本を買い漁っていた。だが、読み切れない本の山を眺めている内に、抽冬は気付いてしまう。


『あ、全部・・読む暇がない…………』


 そう、自分が死ぬまでに、果たして読み切れるのかと言えるだけの本が、抽冬の目の前に所狭しと並んでいたのだ。

 以来、抽冬は本を買うことは止めずとも、すぐに読むものだけを自宅に置き、残りや読破して気に入った物を少し離れたトランクルームに全て預けることにしていた。それ以外は全て、古本屋に纏め売りしている。

 とはいえ、若い内から女を抱き続けるとかえって飽き易く、また酒や煙草以外での嗜好品には、あまり興味が湧かない。しかも、麻薬ドラッグに関しては、抽冬は絶対に・・・手を出さないことに決めている。雇い主オーナーと関わるようになって、初めに思い知ったのが……麻薬組織の末路だったからだ。

「やっぱり肥料・・、もう辞めようかな……まあ、またあいつ来たら、相談してみるか」

 そうぼやいてから、抽冬は傷んだ葉を摘み、実り具合等の生育状態を確認する作業に入った。今のところは、途中で枯れているものが見当たらない為、それだけで済ませておく。

「寝よう……ふぁぁ、」

 傷んだ葉をゴミ箱に放り込み、抽冬は手を叩きながら、自室へと戻って行った。

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