第17話 執事長ニスロク

 紫色の空に、赤い稲妻が轟いている。ひび割れた大地にはやせ細った木が数本生えているのみ。


 琉偉と茜が空間を通り抜けると、中世に存在していた様な巨大な城と光景が目に飛び込んできた。


「気味の悪い城ね…空間を超えた先に城があるって事は、間違いなくあの城になにかあるってことよね…?」


「茜さん、門があるみたいですしそこから入りましょう」


「いや、私はまだ入るとは言ってないんだけど…ちょっと待ってよ!!」


 琉偉は茜の言葉など耳にすら届いていないようで、軽い足取りで城の門に向かって行く。


その後をため息を吐きながら茜も追って行ったが、実を言うと茜は、お化け屋敷などが大の苦手で、見るからにお化けが出そうな雰囲気の、洋風の城に入るのを躊躇っていたのである。



 ギィィィッッ‥‥‥



「勝手に開いたわね…」


「歓迎されてるみたいですね」


「どう考えたらそんな思考になるのよッ!」


「中に入ってみましょうか。茜さんもそんな所に立ってないで行きますよ」


 相変わらず興味がある事には、好奇心旺盛な琉偉に振り回される茜。こうなってしまってはもう琉偉の事は止められない。しかたなく黙って付いて行く茜であった。



 城の中は真っ暗であったが、一歩中に入るといきなり壁に設置してある松明が、入り口から奥に向かって火が点いていく。


 いきなりの事で茜は「キャッ!!」と小さく悲鳴を上げたが、琉偉は「ゲームのラスボス戦の前はこんな感じだよな」とズレた事を思っていた。


「…茜さん。腕掴むの止めてもらえます?魔物が出たら戦えないんですけど…」


「私、怖いの苦手なのよ…戦闘になったら離すから、それまではこうしてて良いでしょ?」


「はぁ…良いですけど…ッ!!茜さんッ!!」


 後ろに気配を感じ、琉偉は茜を抱きかかえながら前方に飛ぶ。


 気配の主を見ると、執事服を着こなした若い男が立っていた。


「驚かせてしまって申し訳ない。この城の執事長のニスロクと申します。主がお客人方をお呼びですので案内にきました」


(すぐ後ろに近づかれるまで、全く気配を感じなかった…なんだこいつ。)


「これはご丁寧な挨拶をありがとうございます。私は茜。この子は琉偉と言います。城の中に勝手に入ってしまったのは謝ります…なので、見逃してもらえませんか…?」


 茜はニスロクの事を見て逃げの一択しかないと感じた。それほどまでにこの得体のしれない執事からは強者のオーラが漂っている。琉偉と茜が一緒に戦ったとしても、勝率は一割もないだろう。だが、


「謝る必要はございません。主があなた達をこの城に招待したのですから。ああ…何か勘違いをされているようですね。安心して下さい。私はあなた達を害する事はしません」


「茜さん、逃げるにしても出口はアイツの後ろですよ?今の所何もしないようですし、大人しく付いて行った方が良いんじゃないですか?」


「ちょッ!!正気!?付いていった先に何があるか分からないのよ!?」


「その時は俺が茜さんだけでも逃がします」


「はぁ…分かったわよ。でも、私は逃げないわ。弟子より弱いけど、これでも師匠だからね」


「…お話は纏まったようですね。では、私の後に付いて来て下さい。」



 琉偉たちの前をニスロクが歩いているが、逃げるなら絶好のチャンス…だが、二人は逃げなかった。いや、逃げれる気がしなかった。


 琉偉の顔からは暑くもないのに、汗が滴り落ちている。それほどまでにこのニスロクの放つオーラは凄まじかった。


 琉偉の異能ジャイアントキリング格上殺しがあるとはいえ、良くて相打ちだろうと琉偉は本能的に感じていた。


 階段を上に上がると目の前には豪華な扉が現れた。


「この中で主がお待ちです。寛容な方ですので多少の事は許してくれるとは思いますが、なるべく失礼のない様にお願いします」


 ニスロクが扉を開けると中は広い部屋になっており、一番奥にはソファーの様な物に寝転んでいる人物が居た。

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