第15話 琉偉の本気

 琉偉と茜は車で最前線に向かい、この最前線の指揮を任されてる人物に話を付けに行くことにする。流石に茜といえども、許可なく勝手に迷宮に潜るわけにはいかないからだ。


『よぉ。美人な姉ちゃんが居ると思ったら茜じゃねぇか。ようやく俺の女になる気にでもなったか?』


『冗談はやめてよリアム。それよりあなたが指揮を取っていたのね。良かったわ面倒な奴じゃなくて』


 軽々しい口調で話しかけてきたのは、アメリカの特級探索者のリアムだ。どうやら、軽口を言い合えるくらいには仲が良いようで、茜はリアムに迷宮に潜る事を告げる。


『茜の事を信用してないわけじゃないが…本当にこんな子供を連れて大丈夫か?見る限りそれなりには出来そうだが…』


『ふふっ。心配してくれてありがとうね。それにしてもあなたも幸運ね。その目で直に琉偉の力を見れるのだから。じゃあ援護も何もいらないからよく見ていなさい。琉偉、行くわよ』


『分かった』


 最前線では多くの探索者たちが、遠距離からの魔法で魔物を近づけない様にしながら倒しているのが見える。どの魔法も一級品でかなりの威力なのだが、一撃で深階層の魔物を仕留めるには威力が足らず、精々足止めくらいの効果しかないようだった。


 そんな中、リアムが琉偉と茜が進む場所への攻撃を止めるように指示が下る。指示がいき渡ったのを確認すると、琉偉は勢いよく魔物に向かい飛び出して行った。


 当然、向かってくる琉偉に魔物達は気付き、襲い掛かってくるのだが琉偉は新調した刀で魔物を次々と切り殺し、道を切り開いていく。


 目に見えぬ程の刀捌きはまさに、大嵐テンペスト


 楽々と迷宮内部に琉偉と茜は入って行く。その姿を見て最前線に居る探索者たちは魔物達に攻撃する事も忘れ、呆気に取られていた。




「うん。やっぱりこの刀は使いやすくていいな」


「それはそうでしょうね。世界でも屈指の刀鍛冶の名匠が作ったのだから。大丈夫だとは思うけど、少し休憩でもする?」


「あの程度じゃ準備運動にすらならないですから。それよりも、本当にこの迷宮を攻略しても良いんですよね?」


「琉偉は相変わらずね…それは勿論大丈夫よ。信じてなかったみたいだけど、一応は言ってきたし問題はないわ」



 この迷宮に入る前に、茜は協会本部にいる会長に話を付けていた。とは言っても会長は「やれるものならやってみろ」と言っていただけなのだが…。



 長らく迷宮に誰も踏み入れていないせいか、魔物達は次々と襲い掛かってくる。しかし、琉偉と茜はまるでピクニックをしているかのように、会話をしながら魔物を倒していく。



 いかに世界屈指の特級探索者と言えども、深階層に出現する魔物をこうも簡単に倒す事など出来ない。ただ、単純に琉偉が強すぎるのだ。



「グラァァァァァァァッッッッ!!!!!!」


「あらら…あれは私の手には余るわね。琉偉。あの五月蠅いトカゲを任せてもいいかしら?」


「了解です」


 ドラゴンは琉偉にとって初めて倒した魔物だ。ドラゴンのお陰で今の琉偉があると言っても過言ではない。


 そんな思い出深い相手を感謝の気持ちを込めて、一刀両断にする。ブレスを放とうとしていたドラゴン自身も何が起こったのか分からないまま霧となって消えていく。


「琉偉。ありがと。そんな琉偉に私からのプレゼントよ」


「…それ、俺が今倒したドラゴンからのドロップ品じゃないですか」



 茜の手には極大魔石が握られていた。

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