第13話 特級探索者の片鱗

 迷宮に潜ると相変わらず低階層だというのに、中階層に出現する魔物が襲ってきてはいたが、以前よりはその数は少なくなっていた。


「じゃあ秋斗はサポートを宜しくね?私が前衛で魔物を倒すから、無いとは思うけど倒し損ねた魔物は琉偉くんに倒してもらおうかな」


「まだ琉偉には少し早いんじゃないか?もう少し戦闘に慣らしてからでも…」


「秋斗がそんな過保護じゃ琉偉くんは強くなれないわよ?それに、琉偉くんならこの位の魔物なんて余裕だと思うけどな」


 茜の言う通りで実際、琉偉にとっては中階層の魔物など軽くあしらえるくらいの実力はついていた。その事は秋斗も以前に琉偉の戦闘を見た事で分かってはいたが、心配するのは親ならば当然の事なのかもしれない。


「さて、そんな話をしていたら相手がお出ましのようね…じゃあさっき言った通りにお願いね」


 魔物が琉偉たちに気付き襲って来るが、常人ならば目で追えないほどの速さで茜は動き、魔物を倒していく。


「あれで、茜は本職が魔法士なんだから呆れるよな…」


「そうなんだ。そう言えば茜さんとはどういう関係?」


「そうだな…今でこそ茜は特級探索者として世界で活躍はしてるが、探索者として初めて迷宮に潜る時に俺が担当で付いてな。それ以来の付き合いなんだが、あの頃は本当に茜はじゃじゃ馬でな…大変だったよ」


 今の茜を見るとじゃじゃ馬とは想像ができないが、昔を思い出しながら話す秋斗の顔を見る限り相当大変な思いをしたのが琉偉にも伝わった。


「昔の事を琉偉くんに話すのはやめてよ。私の出来るお姉さんキャラが壊れちゃうじゃない」


「キャラって自分で言っちまってるじゃねぇかよ…」


「全く…細かい男は嫌われるわよ?それより、琉偉くんも次に魔物が出たら戦ってみる?」


「やりますッ!!」


「うん。元気があってよろしい。それじゃあ先に進みましょうか」


 今回、琉偉としては自分の力を試したいという事もあって、秋斗に頼んで迷宮に来たのだ。特級探索者の茜も一緒に潜る事になり、もしかしたら自分が魔物と戦う事は出来ないのでは?と不安にはなっていたが、特級探索者の戦いを見られるのであればまたそれも良いか、と思っていたのだ。


 そんな中茜からの提案を受け、琉偉は喜んだ。魔物が出現するとそれが単体だろうが、群れだろうが関係なく楽しそうに突っ込んで行ってはきっちりと殲滅していく姿を見て、二人は呆れていた。



「最初に見た時から強そうとは感じたけど、それにしても琉偉くんは凄いわね・・・実力だけならすぐに特級探索者になれるわよ?なんで今までこんな凄い子の噂を聞かなかったのかしら…」


「茜が知らないのも無理はないだろう。琉偉は数日前まではスライムすら倒せなかったんだからな」


「なんの冗談…?その顔を見ると冗談を言ってるわけじゃなさそうね。という事は異能が開花したんだろうけど…それにしても強すぎない?」


 茜は当初、琉偉を見た時にはその強さを感じ取っていた。だかそれでもここまで強いとは思ってはいなかったのだ。良くて、上位探索者レベルだろうと思っていたのだが、琉偉の戦いぶりを見てその評価を上げた。


「茜になら言ってもいいとは思うが、この事は他言無用だ。実はな…」


 秋斗は琉偉の異能について茜に話した。恐らく、いくら秋斗が琉偉の力を隠そうととしても、琉偉にはその気が一切ない。いずれは周囲にバレてしまうとは思ってはいたが、その時に果たして自分が琉偉の事を守れるのかといったらそんな保証はどこにも無い。


 特級探索者の茜は秋斗とはそれなりに長い付き合いだ。信用も出来るし、何か琉偉にあったとしても茜が味方になってくれれば大抵の事はどうにかなる。


 そう秋斗は思ったから茜に琉偉の事を話したのだ。少し不安があるとするならそれは茜の性格だ。茜は、良くも悪くも自重をしないのだ。


「過保護な秋斗が私の動向をやけに素直に認めたと思ったらそういう事なのね。これは確かに、他の目がある所じゃ話せない内容ね…分かったわ。琉偉くんの事は私に任せておきなさいッ!!立派な特級探索者に育ててあげるわッ!!」


「いや、そういう事じゃなくてだな…」


「父さん。話してないで早く先に進まない?」


 思わぬ方向に話が進んでしまったが、琉偉の目標の事を考えるとこれが最善なのかもしれない。そう思い、これ以上秋斗は何も言わなかった。


 その後、特級探索者として世界中を飛び回らなければいけないはずの茜は、全ての依頼を断り秋斗の家に住み、琉偉の事を鍛え上げる事になる。


 後に茜はアメリカのメディアから『世界でも最高の探索者であるあなたは、我が国アメリカに拠点を移した方がいいのではないか?』という質問にこう答えたという。


『アメリカに拠点を移せ?笑わせないで。日本には彼らより最高の探索者がいるもの。この私よりもね』

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