第12話 美優との再会

 茜と出会ってから数日後。琉偉は久し振りに自宅に帰って来ていた秋斗と話をしていた。


「もう父さんは迷宮の調査は終わった?」


「俺が任せられた地方の迷宮は終わったな。まあ、調査と言っても中階層まで潜って、魔物が異常発生してないか調べるだけなんだがな」


「じゃあ明日は一緒に俺と迷宮に潜ろうよッ!!」


「約束してたしな…明日は丁度学校も休みだし、久し振りに一緒に行くか」


 異能を開花させてから琉偉は明らかに変わっていた。


 今まで秋斗に気を使っていたのか、琉偉から迷宮探索に誘ってくることなど一度もなかったからだ。息子の成長を嬉しく思う反面、どこかこのまま遠くに行ってしまうのではないかと寂しく思う秋斗であった。





 次の日になり、秋斗と琉偉は久し振りに階層変化を起こした迷宮に向かっていた。


 協会に入ると外国から訪れていた研究者などもある程度いるものの、西アフリカで起きた大氾濫が起きた国にほとんどの研究者たちは向かったようで、以前ほど数は多くは無かった。


「琉偉くんッ!!」


「ちょっ…み、美優さん」


 琉偉の姿を見ると、琉偉の事を弟の様に可愛がってくれている受付嬢の美優が抱き着いてきた。


 美優に会うのは迷宮変化が起こる前に協会で受付した時以来である。協会の救護室に琉偉が入院していたのは知ってはいたが、上層部の総入れ替えや、協会への問い合わせなどで琉偉に合う時間は無かった。


「本当に無事でよかった…それとお見舞いにいけなくてごめんね?」


「いえ、大丈夫です。それに、色々と動いてくれたみたいでありがとうございます」


 普通の男性ならば可愛らしい女性に抱き着かれ、されには上目遣いで見られようものなら、ときめいてもおかしくはない状況なのだが琉偉は少し変わっていた。


 琉偉は思春期真っ盛りの年頃ではあるが、美優の事は一人の女性というよりかは、面倒見の良いお姉さんという風に思っていたし、何より自分が強くなる事に必死だった為、女性に関しては興味もないのだ。



「あー…美優ちゃん。周りの目もあるし、少し落ち着こうか」


「あっ…すいません!!」



 周りの状況にようやく気付いた美優は、自分の行動に気付き頬を赤く染めながら琉偉から離れる。


「いや、良いんだけどさ。それより今日は迷宮に…「秋斗ッ!!」ゲッ!!」


 秋斗の話を遮り近づいて来る人物に琉偉は見覚えがあった。特級探索者の茜だ。


「ゲッ!!とは何よ。失礼ね。秋斗と会うなんて久し振りじゃない?それに、琉偉くんも久し振りね。こんな直ぐに会うとは思ってなかったけど、秋斗とは知り合いなの?」


「ん?琉偉は茜の事知ってるのか?」


「この間少しだけ話したことがあってさ。茜さんも父さんと知り合いなんですね」


「と、父さんッ!?秋斗って独身でしょ!?なんで私に子供が居る事教えないのよ!?」


「茜さん。今すぐその身体を琉偉くんから離して、静かにしてもらえますか?」


 茜は琉偉を見つけると、その豊満な身体で琉偉の事を包み込みながら騒いでいる。美優も自分がした事を覚えてはいるのだが、茜に注意をせずにはいられなかった。そんな状況でも動じない琉偉も琉偉なのだが・・・。



 まだ琉偉が母親のお腹に居る時に、琉偉の父は迷宮の出現により残念な事に亡くなってしまったのだが、その報せを聞いた母は動揺し、急激なストレスを感じた事により早産となり、琉偉は無事に生まれたものの母親は助かる事はなかった。


 親族は父親の弟である秋斗しかいなかった為、秋斗が琉偉の事を育てたわけである。



「そうだったのね…琉偉くん。何かあればお姉さんも助けになるからね?なんでも言ってちょうだい」


「一々琉偉くんに抱き着かないで早く離れてくださいよ!!」


「少し位良いじゃない。何も襲おうってわけじゃないんだから。それより、ここに居るって事は迷宮に潜るのよね?私も着いていこうかしら」


「駄目ですって。茜さんは中階層以降の調査があるはずですよね?」


「えー?私一人で行くのも楽しくないし、秋斗と琉偉くんと一緒の方が楽しそうでしょ?それに、秋斗だって片足は特級探索者に突っ込んでるくらいの実力はあるし、私も居るから何かあっても大丈夫よ」



 茜と美優の言い合いが暫く続いたが、茜の押しに負け渋々美優は引き下がって行った。こうして、思わぬ形で特級探索者と迷宮に潜る事になってしまった琉偉だが、この後、特級探索者の力を見せつけられる事になる。

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