第11話 特級探索者
トレイン、それは魔物を引き連れたまま逃げる事である。
迷宮法が改正されてから、10代の若者が迷宮の中層に潜る事が認められた。しかし、異能が開花したとはいえまだ子供である。
異能という力を過信しその力に溺れ、実力以上の階層に進む若いパーティーが増えてきていた。その結果、魔物を引き連れ周りに被害を与えてしまうという事態が増えてきてしまっている。
下手をすると、多くの魔物が地上に溢れ付近の住民に危害が及ぶ危険性がある為、協会は新人講習をするなどして対処をしてきた。しかし、それでも馬鹿な事をする若者は一定数いる。
今回の件も深階層に踏み込んだ、若い冒険者パーティーによるトレインであった。
「馬鹿野郎ッ!!お前らはまだ迷宮に潜って数か月そこらだろう!?そんな奴らが深階層の魔物を相手に出来ると思うのか!?」
「俺達だったらいけるかなって思ったんすよ…」
「そんな怒らなくてもいいじゃないすか。結局被害は誰も受けてないんでしょ?」
「はぁ…お前らは6か月の迷宮探索を禁止する処分にする。これだけは言っておく。今回はたまたま運が良かっただけだ。他の冒険者が来ていなかったら、お前らは今こうして生きてはいないからな?ちゃんとお礼を言っておけ」
全く反省していない様子の若い探索者達に、これ以上何を言っても無駄だと悟った協会の職員は、処分を言い渡したがそれで納得する探索者達ではなかった。
その後も散々喚き散らした後、助けた琉偉たちに一言もお礼を言わずに立ち去って行った。
「あんなのがこれからどんどん増えて行くのか…日本の未来は真っ暗だな」
「ん?ああ。そうだな。俺としては自分の力が試せたから別に気にしてないけど」
「琉偉にとっては良かったのかもしれないけどさ…」
救援隊が到着した後、協会職員に軽い聞き取り調査をされていたので、本来ならとっくに帰っている時間ではあったが、未だ協会の中に2人は居た。
琉偉たちが居る迷宮は地方に存在している為、帰りの電車に間に合わなかったので、協会内部にある宿泊施設に泊まる事にしたのである。
「あら?こんな時間まで子供が協会に居るなんて珍しいわね。親御さんが同伴かしら?」
声がかけられた方を見ると、探索者であろう20代前半位の女性が立っていた。
「…ッ!!もしかして、特級探索者の
(誰だそれ?)
「ふふっ。私も有名になったなぁ…調査の為にちょっとね。それで、私の質問に答えてくれる?」
琉偉は自分が強くなる事にしか興味を持っていなかったので知らなかったが、話しかけてきたのは日本でも数名しか居ないと言われている特級探索者の茜だ。
特級探索者になる為にはただ強いだけではなく、様々な厳しい条件があるので、特級探索者になれるのは本当に一握りの者だけなのだ。
仁は興奮を抑えつつ、これまでの経緯を茜に説明をした。
「なるほどね…私もやった事があるから、偉そうに言えたもんじゃないけど、最近はトレインが問題になってるみたいね。ところで、琉偉くんだったかしら?」
そう言うと茜は、常人ならば目で追えないほどの速さで、琉偉の顔ギリギリを拳を振りぬいてきた。
「…いきなり何すんだよ」
「驚いたわ…私の拳を目で追えるなんてね。やっぱり琉偉くんは身体強化系の異能ね?」
「え?何で…どういう事ですか?」
「ふふっ。ちょっと気になっちゃってね。ほんのお遊びよ。良い事教えてあげよっか?私もスキルオーブで入手したけど、身体強化系はハズレの異能と呼ばれているのだけど、特級探索者には必須のスキルなのよ?」
「でも、身体強化系って個人差はあるけど、そこまで身体能力が飛躍的に高くなるわけじゃないからハズレなんですよね?なんで特級探索者に必須なんですか?」
「あまりこんな話を子供にするのはどうかと思うんだけど…探索者は、外では異能やスキルは使えないただの人間になるのよ?けど、身体強化系持ちは、外でも力が使える。これが意味する事が分かるかしら?」
「他国に武力行使で連れ去られるのを防ぐ為か…有名になると大変なんだな」
「琉偉くんは分かってるみたいね。ニュースでは報じてないけど、そういう事が実際にあったのは事実よ。それじゃあ、もう夜も遅いし子供は寝る時間よ?機会があったらまたお話しましょうね。」
茜が立ち去って行った後、仁は琉偉の隣で「サインを貰っておけば良かった…」と項垂れていたが、琉偉は全く興味がないようであった。
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