第10話 トレイン
世界中の人々が15年前、日本に初めて迷宮が出現した事を思い出していた。
日本の迷宮が階層変化という前代未聞の事件が起こってから数日、西アフリカの国で迷宮から大氾濫という今までにない出来事が起こったからである。
まさにあの時と同じ…それ位の衝撃であった。現状、周りの国が軍や探索者を派遣し自国に魔物が入ってこない様にはしていると報道されていた。
詳しい事はまだ何も分かってはいないが、大氾濫が起きた国は発展途上国で、迷宮にはあまり力を割く余力がない国。その為、迷宮内の魔物が外に溢れてしまったのではないか、という見方がされているようであった。
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「ようやく異能に身体が振り回されない様になってきたな…これなら中階層に行ってもいいんじゃないか?」
「4人以上のパーティーを組まないと中階層で探索出来ないけど、どうするつもりなんだ?」
「うっ…それを言われるとな…父さんに頼むとか?」
「秋斗さんは協会から上位探索者の招集を受けて忙しいだろ?琉偉が中階層に進みたいのは分かるけど、もう少しだけ待ったらどうだ?」
秋斗は西アフリカの迷宮が大氾濫が起きた件で、日本の迷宮が今後起きる可能性を調査する為に、地方の迷宮に行っているのだった。
琉偉も秋斗に耳に胼胝ができるくらい、
「俺が戻るまでは絶対に、中階層には行くなよ?」
とは言われていたものの、今まで琉偉は散々不遇な探索者人生を歩んでいたのだ。
自分が異能を開花させたことにより、今まで出来なかった事が出来るようになったら、力を試してみたいと思っているというのは、秋斗も分かっていた。止めてくれる者が居なければ、先に進んでしまうだろうと…。
だから、琉偉だけでなく仁にも同じことを伝えていた。
「そう…だな。もう少し我慢してみるよ」
「よろしい。じゃあもう少ししたら今日の探索は終わりにしよう」
なんとか琉偉の事を納得させることが出来た。そう仁は安堵のため息を吐いていた時である。
「グロォォォッッ!!!」
迷宮の奥から魔物の怒声が響き渡ってくる。
少しすると、四人組の若い探索者パーティーが必死な形相で、走ってこちらに向かってくるのが見える。
「あいつら…琉偉ッ!トレインだ!」
「そうだな。ここで食い止めるぞ」
「馬鹿ッ!恐らく中層以上の魔物だぞ!?何体居るか分からないんんだ!直ぐに協会に行って応援を呼びに行くぞ!」
「俺達がここで逃げたら、あの探索者グループは死ぬぞ?」
「…ッ。分かった。俺が魔法で食い止める。撃ち漏らした魔物の対処を琉偉は頼む」
2人が話している間にも魔物達は近づき、ついには目視で確認できるくらいまでになった。見えるだけで魔物の数は20体以上は居る。
「おいッ!!このまま逃げて協会に救援要請を伝えろッ!ここは俺達が食い止める!」
「はぁ…はぁ…すまん」
そう言い残し、探索者パーティーは出口に向かって行った。
「琉偉。全滅させようとしなくていい。救援が来るまで下がりながら戦うぞ。…琉偉ッ!」
「仁ッ!俺が突っ込む。援護を頼む」
「あの馬鹿ッ…くそッ!!」
琉偉は仁の話を全く聞いてはいなかった。異能に振り回されていた時とは違い、本気の自分の力を試せる時がようやく訪れたのだ。
恐るべき速さで魔物の群れに接近すると、琉偉は魔物をすれ違い際に剣で一撃を加えていく。
(凄い…身体も軽いしこの武器も最高だッ!!)
「これ、俺の援護いるか…?」
仁がそう思うのも無理はない、琉偉が剣を一振りするだけで、魔物は霧となって消えていくのだ。結果、報せを聞いた協会が直ぐに救援をよこしたが、救援隊が現場に着いた時には、魔物の群れは存在せず辺りには魔石が転がっているだけだったという。
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