第7話 琉偉の生還

「琉偉…?」


 仁は目の前の光景に目を疑っていた。それもそのはずである。


 琉偉が生きていた、という事実よりも、ついこの間までスライムすら倒せないでいた友人が、中階層に出現する魔物の群れを相手にしていたからだ。


 中階層の魔物が1匹ならば上位探索者ならば多少苦戦するものの、倒せはするだろう。しかし、琉偉は10匹以上の魔物の群れを相手にしているだけでなく、以前とは見違えるような動きで次々と魔物を切り殺していたのだ。


「ぼさっとするな、琉偉を加勢するぞ」


 後ろから仁に追いついた秋斗に声を掛けられ、我に返った仁は琉偉に加勢しに行く。


 なんでもないような顔をしていた秋斗であったが、内心は驚き半分、喜び半分といったところだった。だが、流石上位探索者である。そんな事を表情に出さずに、仲間に指示を出して琉偉の加勢に加わった。



 秋斗達が加勢して数分後には魔物の群れも殲滅され、仁は琉偉の元に駆け寄った。


「琉偉ッ!!良かった…本当に良かった」


「仁…。心配かけて悪かった」


 そんなに仁が心配しているとは思ってもみなかった琉偉は、泣きながら抱き着いてくる仁に対し、どう接していいのか分からなかった。


「仁。琉偉も困ってるぞ?とにかく直ぐにここから離れる準備をしろ。琉偉…一人でよく頑張ったな」


 魔物の群れを倒したからと言って、迷宮の中が危険な事には変わりない。秋斗も色々と聞きたい事があったが、まずは皆を無事に帰還させてからだと、帰還の指示を出す。



 琉偉も迷宮変化に巻き込まれてからは、緊張状態が続いていたが、秋斗や仁といった気を許せる人と会った事により、緊張の糸が切れ意識を失ってしまう。



 琉偉が突然倒れた事に騒いでいた仁であったが、気絶しただけだと知って安堵した。


 その後、何度か魔物と戦闘をしたものの、無事に迷宮から脱出することが出来たのだが、時刻はもう日付が変わるかどうかだったのにも関わらず、協会の中には多くの探索者や協会職員が捜索隊の帰還を待っていてくれた。


 秋斗の背中で眠る琉偉の姿を見た探索者たちは、最初は驚いたが琉偉の無事を喜び大騒ぎになった。


 この中に居る誰もが琉偉の事をスライムすら倒せない事を知っていた為、生存している可能性はないだろうと思っていたからだ。


 それは協会の上層部も同じで琉偉の生還の報せが届いた時には喜んだ。このままでは上層部である自分たちの首が飛ぶ寸前の所まで来ていたのだ。これで、世間からの非難が少しは収まるかもしれないと。


 すぐに、協会のトップである会長が琉偉の元に接触を図ってきた。


「いや、本当に無事で良かったよ!早速で悪いんだが明日の朝に会見をするから、琉偉君にも是非出てもらいたいんだ」


「…会長。いきなり救護室に押しかけてきて、一体何を言ってるんですか?息子は3日も迷宮の中に居たんですよ?医者も暫くは安静にという事ですし、お断りします」


「なッ…秋斗君良いのかね?君が探索者で居られるのは、私のおかげなのだよ?私のサイン一つで秋斗君は探索者として活動する事は出来なくなるがいいのだね?」


「そうやって美優さんの事も処分したんですね。私はどうなっても構わないが、息子を自分の保身の為に使う事など到底許容できません」


 秋斗は断固として琉偉を表に出すことを許可しなかった。だが、会長も自分の首がかかっているのだ。


 話はこの後も続いたがどちらも譲らず、話は平行線のままであった。ついには、会長の方が折れて捨て台詞を吐いて部屋から出ていった。


 会長は秋斗が探索者として活動できないようにしようとしたが、それは叶う事は無かった。


 この会長と秋斗のやり取りを、仁がバレない様に動画撮影をして、有名動画配信者である自身の兄のチャンネルでノーカットで流したからだ。


 瞬く間に再生数は伸び、SNSで拡散され協会上層部の悪事が露見してしまう。


 会長自身が言った言葉だ。当然だが言い逃れなど出来ない。


 ついには重い腰を上げた国のお偉いさんが動き、協会や協会上層部の家宅に立ち入り捜査を決行した結果、次々と世の中に公表できないような悪事が見つかる事になる。


 結果、この事実を上層部全員の首と引き換えに揉み消すことになった。


 協会には真っ当な人材が送られる事になり、これにより協会は少しづつ世間からの非難は弱まっていくことになる。

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