第8話 友人たちの想い
琉偉が迷宮から生還してから2日。未だ琉偉は目を覚まさないでいた。秋斗は心配になり何度も医者に聞きに行ったが、身体の何処にも異常はないとの事であった。
その間も琉偉の元には続々とお見舞いに来る友人たちの姿があった。
「仁。お前のせいじゃねぇよ。あんまり自分を責めんなよ…元はと言えば俺達が、琉偉の事をお前に任せっきりにしていた俺達が悪いんだよ」
「あれは皆で話し合って決めた事だろ?お前達は悪くないよ。琉偉の性格上、大勢で琉偉に付き添っても、琉偉は気にして自分を責めるだろうって」
「そうだけどよ…まあ、仁もちゃんと帰って休めよ?ずっとここに居るし、琉偉が起きた時そんなゲッソリした顔を見せたら心配させちまうだろ?」
「そうだな。一旦帰って少し休むことにするよ」
そう言って仁と友人たちは救護室から出ていった。
実の所、琉偉は仁と友人たちが救護室に居る時から起きていたのだ。ただ、どのタイミングで起きていいかわからずに、寝たふりをしていたのだった。
「俺は周りが見えてなかったんだな…。自分が強くなる事に必死で、周りに気を使わせてばっかりで…はぁ。自分が情けない」
友人たちの言葉を聞くまで琉偉は、自分がスライムすら倒せない事に飽きれ、自分から離れていったのだと考えていた。
だからと言って、友人たちの事を嫌いになるわけでもなく、それは当たり前な事だろうと、しょうがない事だとも思っていた。
「お?琉偉、やっと起きたか…心配したんだぞ?」
「父さん…心配かけてごめん」
「ん?いや、お前が無事ならそれでいいんだ。それより、さっき仁や友達とすれ違って少し話した時は、まだ起きてないって聞いてたけど…ほら。腹減ってるだろ?」
秋斗はそう言って琉偉に、携帯食料であるカロリーバーを投げてきた。
確かにこのカロリーバーは栄養素が豊富に入っているので、今の琉偉には丁度良いのかもしれないが、
「不味いわけじゃないけど、迷宮の中じゃないのに食べたくないんだけど…」
「そうか?俺は好きだけどな。ところで、あの日何があったんだ?」
少し真面目になった顔をした秋斗は、琉偉にあの日の事を聞いてきた。隠す事でもないので、琉偉はあの日迷宮の中で何が起こったのかを話し始めた。
「そうか…ついに琉偉も異能が開花したんだな。嬉しいやら、心配やらで父さんは複雑だけど、その感じだと探索者として活動するんだろ?」
「父さんには心配かけるけど俺は探索者を続けるよ。俺は、いや…俺の家族は迷宮が出現したせいで全てが壊れたんだ。迷宮さえ出現しなければって何度も思ったよ。だから、俺は世界中の迷宮を攻略してこの世から無くすのが目標なんだ」
「琉偉…」
自分の事をあまり好んで話そうとしない、琉偉の気持ちを始めて聞いた秋斗は、どのような結果になるかは分からないが、琉偉の目標を応援する事にする。
迷宮出現から15年経った現在でも迷宮が攻略された後、どうなるのかハッキリとは分かっていない。
最も有力な説は迷宮を攻略する事ができたら迷宮はこの世から消える、という説が有力である。しかし、迷宮先進国の超大国アメリカでさえ、深階層に出現するドラゴンによって攻略は長らく停滞したままなのだ。
この世界で迷宮を攻略した国が無い以上、迷宮攻略後に実際どうなるかは分からないのだが、琉偉の異能の力ならばその謎が解明する時が来るのかもしれない。
琉偉が目を覚ましたと連絡を受けた仁や友人達が、部屋に押しかけ看護婦さんにお叱りを受けるというハプニングはあったものの、ようやく医者から退院する許可を貰った琉偉は秋斗と一緒に家に帰っていた。
「迷宮で新しい力を使いたい気持ちは分かるが、医者からも言われた通り一週間は迷宮に行くのは禁止だぞ?」
「分かってるよ…それと迷宮に潜る時はパーティーを組め、だろ?」
何度もしつこく言ってくる秋斗に若干呆れつつも、琉偉は内心早く迷宮に行きたくてしょうがなかった。
「今日は琉偉の退院祝いをするから豪華に行くぞ?」
5日間家に帰ってないだけで、なんだか懐かしく思いながらも家の中に入り、その日は琉偉の大好物のすき焼きで退院祝いをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます