第4話 階層変化
琉偉がドラゴンと対峙している頃、地上に居る者達も迷宮に異変が起こっている事を察知はしていた。
しかし、元より日本という国は会議の為に会議をするといった、非常に時間を無駄に使う国ナンバーワンである。
その様な国民性の為、緊急を有する事態が起こったとしても、すぐに対応できる優秀な人材は協会の上層部には居なかった。
慌ただしい状況の中、協会の職員がどうすればいいか上層部に聞いても、回りくどい言い方ばかりをして具体的な指示を出さない。
なぜ?それは、上層部の人間は責任を問われる事を避ける為に、他人任せにしているのだ…。
そんな中、1人の冒険者が傷だらけの状態で協会に飛び込んでくる。そこでようやく迷宮の中で起きてることを協会の職員は知る事になる。
すぐにでも上位探索者による救助活動をするべきだというのに、この期に及んでも協会の上層部の人間は、責任の押し付け合いをして一向に指示を出す気配がない。
そんな協会上層部の状況に我慢ができなくなった受付嬢主任の美優が、独断で上位探索者を招集する事にした。当然、上層部は美優の事を非難をした。しかし、そんな事を美優は気にはしない。
美優は探索者からの信頼も厚く、誰からも好かれる様な受付嬢である。そんな受付嬢が救助要請を出せば断る上位探索者などこの街にはいない。その位、美優は探索者達から愛されていた。
その後、美優のお陰で迅速に救助チームは結成され、迷宮内部に救助隊は突入していくこととなる。
この事は生放送で大きくメディアに取り上げられることになり、各局はこのニュースでもちきりであった。このように大々的にニュースになれば、琉偉の友人である仁も当然、迷宮で起こっている事を知る。
「琉偉ッ!!」
テレビの向こうには、今日琉偉が1人で行った迷宮が映し出されている。いてもたってもいられなくなった仁は迷宮に向かって走り出した。
低階層だというのに、迷宮の内部は以前と比べ物にならないくらい強力な魔物が出現していた。なんとか上位探索者で組んだ救助隊は次々と探索者を救助していくが、残念ながら死亡してしまっている人も中には居た。
救助は困難を極め、上位探索者に被害が及び始めた頃に救助は一時打ち切られる事になる。
そんな時にようやく現場についた仁は、迷宮の傍で指揮をとっている美優の姿を見つける。
「美優さんッ!!琉偉は…琉偉はどこですかッ!?」
「…」
大粒の涙を流す美優の姿を見て仁は状況を理解する。
「…琉偉はまだ中にいるんですね?俺が行きます…絶対に助け出して見せます」
決意を決めた仁の顔を見て、本来止めるべき立場の美優は何も言う事が出来なかった。それほどまでに覚悟を決めた表情を仁はしていた。
ハッとした美優は、このままでは仁も迷宮で死んでしまうかもしれないと思い、仁の事を追いかけようとしたが、そんな仁の腕を掴む人物が居た。
「秋斗さん…」
「少し頭を冷やせ。上位探索者の俺達でもこの有様だ…。いくら異能持ちのお前でも、中に入ったら間違いなく死ぬ」
秋斗は琉偉の義父であり、そして上位探索者だ。そんな秋斗の身体は傷だらけで、すぐに治療を受けないといけないような深い傷もある。
「琉偉がッ…琉偉がまだ中にいるんですよッ!?秋斗さんは琉偉の義父でしょう!?あんたは息子を見捨てるのかよッ!!」
「…」
「仁くんッ!!秋斗さんは一人でも行こうとしたの…でも、これ以上は危険だって…傷だらけの秋斗さんを他の仲間が連れてきたのよ。秋斗さんだって悔しいんだよ?助けたいって思ってるのは仁くんだけじゃないのよ?」
泣きながら説得しようとする美優と、必死に感情を押し殺してる秋斗の姿を見て、仁は少し頭が冷えてきた。
未だ迷宮の中からは地鳴りが鳴り響き、階層が変化し続けている状況で、階層の変化がいつ収まるのかは分からない。
そんな中に仁が一人で入り、仮に運よく琉偉を発見し合流出来たとしても、異能を開花させていない琉偉を庇いながら、変化している迷宮から出口まで辿り着く事は極めて困難である。
「酷い事言ってすいません。でも、この状況が落ち着いたら俺も捜索隊に加わります」
そう言い残し仁は帰っていった。
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