第3話 異能の開花

「ドラゴン…?」


 緑色の鱗で全身を覆っており、10メートル以上はありそうな巨体。琉偉はこの時初めてドラゴンを見た。




 迷宮先進国のアメリカでは日本政府とは違い、探索者に対し税金を納める額などが少なくて済むような優遇措置を取っている。これにより、世界でも高レベルな探索者がアメリカに集まり、他の国よりも遥かに迷宮の攻略は進んでいた。


 しかし、アメリカ最強の探索者率いるパーティーでもドラゴンの討伐は未だ出来ておらず、迷宮攻略は進んでいない状況であった。


 そんな誰も倒せないでいる化け物が、琉偉の目の前に横になっている。今は寝ているようだが、いつ起きてしまうかは分からない。何故こんな低階層にドラゴンが居るかは琉偉にも分からなかったが、今はそんなことを考えている暇はない。


 起きてしまう前に一刻も早く逃げ出さないと…しかし、ドラゴンの爬虫類のような獰猛そうな目が開き、琉偉と視線が合う。


「グルアァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!」


 琉偉を視界に入れるや否や、鼓膜が破れてしまうのではないかと思う程の咆哮が迷宮に響き渡る。


「…ッ!!!」


 アメリカの最強パーティーですら手も足も出ないドラゴンを、スライムも倒せない琉偉が倒せるはずもない。逃げようと出口を探すが、出口はドラゴンの後方にしかない。


 ならば来た道を引き返すか?それを許してくれるほどドラゴンは甘くはない。



 ドラゴンが大きく息を吸い込んだかと思うと、灼熱のブレスを琉偉に吐いてくる。こんなものが直撃でもしたら骨すら残らないし、仮に避ける事が出来たとしても、ブレスの余波で死は免れないであろう。



 灼熱のブレスが琉偉に迫ってくる中、逃げる素振りも見せずにただ剣を構えていた。この場を見ている者が居たら、琉偉は生きる事を諦めたと思うだろう。


 だが、迫りくるブレスを目の前にして琉偉が感じていたものは、恐怖でもなく死でもない。『このブレスは自分に切れそうだ』そう感じていた。


 半ば本能的にブレスに向かい剣を振り下ろすと、あっさりとブレスは拡散する。


 秋斗から貰った剣は安物というわけではないが、業物でもない。現にスライムすら琉偉は切れなかったのだ。


 勝利を確信していたドラゴンは、まさか自分より小さき者に自慢のブレスを無効化されるとは、思ってもいなかったようで大きな隙を琉偉にさらしていた。


 その隙を逃すまいと、琉偉はドラゴンに最短距離で進む。


 今までの琉偉には出せないようなスピードでドラゴンに近づくと、首を剣で一閃。


 ドラゴンはなすすべもなく琉偉に首を一刀両断され、息絶えた。


 琉偉もこの状況が呑み込めていなかった。スライムすら倒せないでいた自分がドラゴンを倒した。そんな絶対にあり得ない事が、実際に起こっている事を上手く脳が認識できていなかった。思わず自分の頬をつねって見るが、


「痛い…。夢じゃない?」



 この時、琉偉は自分の異能が『ジャイアントキリング格上殺し』という事が頭の中に浮かんできた。ついに琉偉の異能が開花したのである。


 先に異能を開花させた友人達が言っていたことを琉偉はこの時思い出す。



『不思議と頭の中に言葉と異能の効果が浮かんでくるんだよ』


 現に不思議と琉偉も自身の異能の効果が分かった。ジャイアントキリング格上殺しの効果は【自分より格上の相手と対峙した際に能力の大幅な上昇が見込めるが、逆に格下相手だと能力が大幅に下がる】といったものであった。


「これのせいで俺はスライムすら倒せなかったのか…」


 異能というのは現在においても日夜研究されてはいるが、分かっている事はそう多くはない。


 ただ1つ分かっている事は、制限付きの異能は『制限が強ければ強いほど異能の能力は強い』というかなりざっくりとした事だけであった。


 現状、以前より迷宮法は緩くはなっているとはいえ、未成年のソロでの迷宮探索は低階層までと法律で決められている。


 スライムすら倒せない琉偉がいくら異能が開花したと言っても、周りは信じてくれるかどうかは怪しい。それに、このジャイアントキリング格上殺しはスライムの前では通用しないのだ。


 格上が居るであろう中階層には特例は存在するが必ず、4人以上のパーティーを組むことが迷宮法で定められているが、琉偉とパーティーを組んでくれる物好きな人など、秋斗と仁くらいしかいないだろう。


 結局、琉偉は異能が開花したはいいものの、以前と結局同じという事が分かり項垂れてしまう。


 一瞬でも希望が見えた後に突き落とされるのは精神的にかなりキツイ。そんな時、ドラゴンの落としたドロップアイテムが目に入った。

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