第2話 最弱の探索者

 琉偉は協会に向かっていた。迷宮に入る為には名簿に記帳などの簡単な手続きをしてからでないと入れないからだ。


「琉偉くん。今日は1人で迷宮に入るの?」


「はい。そのつもりです」


「あんまり奥まで行っては駄目よ?」


 話しかけてきたのは協会の受付嬢の美優みゆ。昨年から迷宮に潜り始めた琉偉の事をいつも気に掛けてくれる女性だ。


 協会の中にはベテランの探索者や同年代であろう探索者が、それぞれパーティー内で談笑しているのが見える。


 琉偉のようにソロで迷宮に潜る人など滅多におらず、協会内では少し浮いた存在だ。なぜ琉偉がソロで潜るのかと言うと理由がある。単純に琉偉が最弱の魔物であるからだ。


 そんな人物をパーティーに入れようとする物好きはおらず、当初は一緒に潜ってくれていた友人達も琉偉から次第に離れていき、ついには仁だけしか琉偉の傍にいなくなってしまった。


 そんな仁も今は居ない。美優に「分かりました」と小さく呟き琉偉は迷宮に潜る。その背中を心配そうに美優は見つめていた。


 迷宮の低階層にはスライムしか存在せず、魔石の値段も安いので迷宮初心者しかスライムを狩らない。そんな他の探索者から見向きもされないスライムと必死に戦う琉偉の姿があった。


「くそッ…なんでだよ。俺だけなんで倒せないんだよ…」


 ベテラン探索者でもあり父親代わりの秋斗から譲り受けたショートソードで、琉偉はスライムに切りかかるが他の探索者なら1撃で倒せるスライムも、琉偉には倒すことは出来なかった。


「周りは『異能』を開花させてるってのに、俺だけこんな所で躓いているわけにはいかないだろ」


 琉偉は自分自身を奮い立たせるように小さく呟く。




『異能』。それは、迷宮がこの世に出現した年以降に生まれた子供が持つ特異能力である。迷宮の中でしか使う事は出来ないが、長らく迷宮攻略が遅々として進んでいなかった迷宮攻略に希望を与える事になる。




 いつもなら一緒に潜ってくれる仁が、ムキになる琉偉の事を気遣いながら付き合ってくれるが、今日は仁が用事がある為一緒にはいない。ムキになって周りが見えていない琉偉は、いつもなら帰る時間なのだがその事も忘れ、徐々に迷宮の奥に進んでいってしまう。



 そんな時である、立つことも困難な程に迷宮が揺れたのだ。初めての事態に琉偉は立つ事も出来ずにただ、座って揺れが収まるのを待っている事しか出来なかった。


「一体なんなんだ?」


 揺れが収まった時に琉偉はようやく周りの状況が変わっている事に気付く。


「道が…変わってる?」


 琉偉が振り返った時には道は壁で塞がれており、戻る事は出来なくなっていた。残る道は琉偉の目の前にあるのみ・・・琉偉がこの迷宮から脱出するためにはこの道を進んで行くしか選択肢はない。


「仕方ない…か」


 このままここにいてもしょうがない。協会が迷宮の異変に気付いて救助隊を派遣してくれる可能性も考えたが、行き止まりの道に居ては魔物が来た時に逃げる事は出来ないと考え、琉偉は先に進むことにしたのである。





 どの位の時間歩いただろうか…たまに迷宮が少し揺れる事はあるが、魔物が出現したりなどは未だしていない。


 もし、今日一緒に仁が潜っていたら…もし、自分がムキになっていなければ…そんな事ばかり琉偉は考えて後悔していた。そんなことを考えていても過去には戻れないのに・・・。



 生死が隣り合わせの迷宮で考え事をしながら歩くのは自殺行為だ。通常開けた場所には魔物が多くいる事がある為、入る際は警戒をするのが基本中の基本だ。その事は琉偉も分かってはいた。だが、考え事をしていた琉偉は、目の前に開けた空間があるのにも関わらず、無警戒のまま入ってしまった。


 琉偉が無警戒に入ってしまった部屋の中には琉偉の事を丸飲み出来る程、巨大なドラゴンが部屋の中央に居座っていた。

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