第25話

「返すというより、元に戻すというより、進めた方が良いんじゃないかな」名もなき鐘楼守りが言う。

「時間とかを進めるとかじゃない。記憶を進めなよ」

それだけ、と。鐘楼守りが言う。

 わたしは、アリアちゃんは。20歳。でも、ここはやってきたばかりの14歳から15歳で、歯車が動いていない。噛み合った歯車が動いていないのに、デジタル時計がわたしたちを進めた。

「無理みたいだね。でもね、不老不死みたいで、わたしは得してるからね。じゃあね、雪衣ちゃん」

アリアが退所する。

でも、と振り返って。

「雪衣、雪行、綺雪。言っておかなきゃいけないことがある。マリアのいない世界を奪うと、どうなると思う?」

それはいつか衣宵に言ったわたしの妙案。

「マリアのいる世界に、いける、ッ」

「そうか、そうだね、でもそれって。

衣宵は、宵くんはどうなることだと思う?」

震えがきた。わたし、わたしは、

「まって、」

「衣宵くんは待たなかったよ。ユキユ。喜び勇んで行っただろうね。そうして綺雪。きみは良いことを教えてやったと思ってる?雪衣ちゃんは、本当に衣宵がここを出ていけたと思っているの?」

おめでたいよ、と。

「しんじゃったよ、衣宵くん」


「もう会えない」


「うそだ」

「嘘だよ」

吹いてもいない風が止まった。わたしの血流が止まったのかもしれない。

「さて、と」

キャリーバッグを転がして、北の大地から一緒だった親友が去って行こうとする。

「荷物それだけなんだね」

「1番大きい荷物はね、司令塔という役割と演技と共に、置いてきます。ひどいと思うなら、まだ貴女は14歳か、15歳の、あのころココに来たままのアナタ」

大人の笑みで、扉から去っていく。

他の、中二病患者たちはそれぞれが幽霊のように窓に張り付いている。

「外出許可はちゃんと取るんだよ」

 それが親友の最後の言葉だった。

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