第24話

「落ち着いた?」

「ダージリン?アールグレイ?」

「香りでわかるでしょう?」

「……アールグレイ」

「そうだよ、雪衣ちゃん」

アリアちゃんに天空の宝石を思わせるようなティーセットで紅茶をもらう。

「わたしは、忘れてた。悲しい鐘楼守りに、願ったことを」

「うん。悪いことじゃないよ。ただ相手が本物だっただけ」

「アリアちゃんも同じものを奪われたの?その、こっちにきてから今までに至るまでの歳月と自我の、意識の在処みたいな」

「そんな感じだよ。半信半疑だったし、ただだったけど。気づいて、ユキユ。記憶は飛んでいなくても、そこに実感はある?」

考えてみた。恥ずかしいことだけれどひとつ。

「衣宵とのやりとりだけが、鮮明で、流されるものじゃない」

にっこり笑って、これだけは真実で誇らしくて、少し恥ずかしい。

「雪衣ちゃん。恋をしちゃったんだね。ハタチの身で、14歳の男の子に」

「犯罪だよ、思想が」

「悪いこと考えないで、相手が幸せになれることを考えていれば、それは恋愛だよ」

アリちゃんがカップをソーサーに置く。

「よかったあ。雪衣ちゃんが恋愛できて。わたしは一通り体験できたけど」

「えっ?!」

「わたしは普通に通学できるもの。ちゃんと体験してきたよ。色々。でも、それも眉唾物だった。雪衣ちゃん、じぶんが、そのー、老けた、とか、成長した、って思う?身体面で」

精神面でもなくて落ち込んでると、アリちゃんがやっぱりか、と納得する。

「大人っぽくはなっているよ?だけどすごくゆっくりなんだ。それでも、確かに言われるとわたしもユキユちゃんもハタチだ。あ、名前統一できない。看護師さんたちは気づいてるのかな?そもそも鐘楼守りはヒトなのかな」

「アリちゃん」

「なに?」

「難しい」

「そう?単純な話だよ」


奪われたものを、奪わせてしまったものを、返してもらいに行こう。

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