第20話
ユキユには、辛い言葉があった。
なんか思ってたのと違った
母の言葉らしい。言われたような気もする。
辛辣とはまた違う。
残酷な母のせいで、北の大地でとある若者が、ひとり静かに息を引き取り、雪が積もり、凍ってしまった。
あいつが勝手に死んだんだよ
わたしは。本名、雪衣(ゆきえ)は。
だれかに似ていると言われたことがない。
白い髪に、赤の混じった黒い瞳。
世界にはアルビノだのなんだのの遺伝子を受け継いで現す人もいるだろう。
そういうひとは、うつくしい、と言われている。
珍しいからだろうか。
「ユキユさんに似てる人、見たことあるよ」
桜の花びらを全身に受けながら芝生のレジャーシートを敷いたわたしと衣宵は、なぜか仲良く寝転んでいた。14歳と20歳。ハタチかあ。
「似てる、と言われた途端に、なにかのレプリカ。類似品にされた気分だ。はじめて」
「嫌な気分?」
「ちょっと。個性が薄くされた気分だけれど」
わたしの場合は、
「わたしはね、マリアになりたい」
今まで誰にも言ったことはない。
黒い瞳と髪が羨ましい。幼稚園で赤い目の白兎にたとえられる悲しさを他は知らないだろう。それとも。
「あの赤目の白兎に寄り添って、愛らしく動ければよかったのかな」
そうすれば、毎日を黒い服を着て過ごすこともなかったのか。
「似ている人はどんな人?」
「ちがう病院でみたことある。外国のひとだったよ」
「なおさら遠いな」
「なぜ?日本生まれかもしれないのに」
「ああ」
そっか。
そんなわたしたちの頭上には、幽霊がいた。
衣宵がずっと会いたかったが、今後一生生身で会えない人。
「何日もずっとここにいる……」
思い出の場所なのかもね、とか言えばいいのか。
ずっと目を覚まさなかった一人の女性が。
先日息を引き取ってから、中二病棟の桜の木には幽霊マリアが一日中いる。
「息子って、こういう時どうしたらいいんでしょうね」カラリと笑って美貌が波打つ。波打っているのは。
「涙もでないよね」
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