第17話

どれだけ愛を見せて欲しいと頼んでも。

自分の形は変わることがなく。

変える必要もなく。

ただ永遠に変わらない人はいるのだ。

時が止まった人というのは実在する。

幽霊だからなにも語ってくれないんじゃない。

生者だからうごけるんじゃない。

目の前の少年は、母を知らない。

ただ姿だけを知っている。

大きな黒目がちの、黒髪の似合う。

幽霊の母と生者の子。

「どうしてここにきたのかわからない……」

少年は嘆く。

「ここにいると不思議な事ができる範囲で起こる。自分が近くにいる時に。それは……」

誰かが望んで起こしているのか。

「こんなに空虚な気持ちなっても、声だけで姿さえ見せてもらえない。他の人には午前零時には見えるんでしょう?」

「……君が来てから、皆んなの前に姿をみせなくなったよ」

声を聞いたのも久しぶり、だ。

「どれだけ、」

少年はしぼりだす。

「どれだけ言うことを聞けばいいんです。どれだけ人を観察すればいいんです。どれだけ人を無視したらいいんです。どれだけ、あと、どれだけ、大人になっていかなきゃいけないんですか?!」

衣宵が悲しんでいる様な。悲しそうに見せている様な口調で言う。私は。困った。

「わがまま言われても困る。悩みを打ち明けられても困る。解決策が浮かばない。マリアは、アリアちゃんが言うには、君の目指していた人かも知れない」

私はただなにも、何一つ導けない。でも。

「この病棟兼学園の、離れの鐘楼に向かうといいと思う。そこだけは、アリアちゃんも私もどうしていいか分からない場所だから。鐘を突くための低い様な高い様な位置にある。この世の不思議がもう一つある。それならば、生きたものだから」

生きた怪異。怪異なんて言葉はマリアには使ってはいけないと暗黙の了解で桜人たちの間で伝わっていた。多分、マリアは最初は、あるいは途中から、もしかしたら最後に。

血のつながった実の息子の事を放り出せるのかも知れない。

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