第15話
ここの桜はね、毎日咲いてるけれど。
ただの枝だけだったり。葉が青々と茂って毛虫が心配になる時があるんだ。
私は。
春。
衣宵に語る。
貧血でふらつく様だけれど。
これなら。
いまは、よるではなく、早朝だ。
「あの時はいきなりお風呂に入れてごめんね。温めなくちゃ、っていう言い訳があったんだ」
人生で言われた辛いことの一つ。
責任を持たずに引き継ぎもなしに作業をそのままにして帰ったら「当然」お叱りを受けて。ただ「はい。すみません」と言うしかない。それが正解。ゆるい場所なら、関係なら、説明や愚痴が許され遅ればせながらの伝言が出来る。
だから。
白い髪をかき上げながら、春の微風に散る前の桜の木に問う。
「マリア。息子さんが会いにきたよ」
衣宵が目を見張る。
その瞠目が。大きなまなこが、そっくりなのだ。
〈お母さんも昔、中二病だったの〉
声だけが枝の間からこぼれ落ちて私たちの身の上に弾けてくる。
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