第11話

 扉を閉めた、執務室。入ってしまえば特別でもなんでもない。執務室は執務室だ。

「今ので亡くなったり、倒れた桜人はいないってさ。」

綺麗な指を組みながら、アリアは興味深そうに、薄幸の美少年をみている。

「少年!」

少年が、びくんっ、と声で、目線で、気の毒なほど飛ぶ。アリアちゃん。どうする気なの。分かるけれど。

「きみに、ここでの名前を与えよう。」

「名前?」

少年が、気弱そうながらも不機嫌な態度を見せる。しかし、アリアは盛大に無視する。

「白い衣服がとても素敵だね、それに、宵の明星のようなその、黒い闇と輝きをすべて吸い込んだ大きなまなこ。決めたよ、名前は衣宵(いよい)だ。」

 私は、ぴくり、とした。

 アリアは楽しそうに、口元を緩めている。

「それとも、本名でいく?カルテはここにあるよ?」

アリアの手元にはいつからあったのか、封筒が握られている。

 気弱そうな少年は、これまた長いまつ毛で影をその瞳に写し、古い映写機か、壊れかけの人形のように「はい。」とだけ了承の意を示した。

 はたして衣宵は、何日でここから出られるだろう。

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